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黒崎春人は、走り出す  作者: カナヘビ
3/3

優しさと、諦め。

田中太郎、彼には父親がいなかった。物心がつていた時既に両親の仲は険悪で、母親が目の前で殴られるのも珍しいことではなかった。彼が、小学2年生になる頃に両親は離婚、その後母親とともに実家のある福島県に戻っていた、その時初めて、祖父母の顔を見た、抱きしめられて「怖かったね、もう大丈夫、もう大丈夫だよ。」と言われて泣いた、今まで我慢してきた分泣いた、みんな泣いていた。


転校した先での反応はとても良いもので、手厚く出迎えてくれた。  嬉しかった!!

しかし、その幸せが長くつづくことはなかった・・・。

彼が小学4年生に上がってから間もない頃、あることに気づいた、(漢字が書けない・・・?)

彼は障害を持っていた、ディスクレシアと言う、障害を・・・。



                ディスクレシアとは?


学習障害の一種で、知的能力及び一般的な理解能力に異常がないにもかかわらず、文字の読み書き学習に著しい困難を抱える障害である(人によって症状を異なる)。 簡単に説明すると、どんなに頭が良くても文字の読み書きが難しいと言うものだ。

彼の場合は読めるが、書くことが難しい、彼の書く文字はとにかく汚い、漢字は書けず、ミミズが干からびたような、平仮名と、カタカナ、文を左から右に書いていくにつれて斜め上に傾き小さくなっていく・・・普通の人間が一般的にできる当たり前のことができなかった・・・。



「なんであなたは他の子達と同じことができないの?ねぇ、なんで?」当時担当だった女教師がゴミを見るような目でそう言い放つ 「ごめんなさい」彼は泣きそうな声でそう答えた。無理もない、彼はまだ子供なのだ。 しかし大人というのは残酷だ。「ごめんなさい」「謝ればいいってことじゃないの!ねぇなんでこんな簡単な問題がわからないの!!馬鹿なの!?国語算数理科社会!!どれもまともにできないじゃない!!おまけに運動神経もない!!おなたのお母さんが可哀想よ!」彼女の怒号、八つ当たり、暴言とも言えるものが職員室に響き渡る、ーーーそう・・・ここ職員室、他の教師や、生徒が見ているところでの大説教・・・超キツイ・・・

その後、説教が終わり彼は教室に向かっていた。 (まさか他の生徒に馬鹿が移るから学校に来るなとまで言われるなんて・・)

「(涙が)で・・出ますよ・・・」      この時、田中太郎小学6年生


数ヶ月後、彼は中学に進学した。 ここから徐々に彼の人生が狂い始める。彼が進学して間もない頃、彼の異常な行動が目立つようになっていた。その異常性とは、まず、細かいことに注意を払えない、集中力が長続きしない、物忘れが激しく記憶力がない、じっとしているのが苦手で、体の一部を動かしていないと落ち着かない。


彼の障害は一つではなかった。注意欠如多動性障害(ADHD) それがもう一つの障害だった。 


気が付いた時には彼は、いじめの対象になっていた。教師は何も言わなかった。いじめは激しさを増し行った、陰湿で狡猾な手口子供のくせして頭が良いだけ質が悪い、彼は、肉体的にも、精神的にも追い詰められていた。逃げ出したかった。

同級生の中には仲間がいない、教師は見て見ぬ振りをする、母親は仕事が忙しく家にいることは少なかった。

家にいるときも、常に電話の向こうの誰かと喋っていたので邪魔をするわけには行かず、見ているだけだった。

母親の仕事を邪魔してはいけないという優しさがそれを許さなかった。


逃げられない彼は耐えることにした。受け流すことにした。自分はこうゆう人間なのだと、殴られるのが当たり前、蹴られるのが当たり前、悪口や陰口を言われるのも当たり前なのだと、当然なのだと、何故ならば俺は人間ではないから、人とは違うのだから・・・。

彼のストレスは凄まじいほどに膨れ上がっていた。爪から血が出るほど噛みちぎり、暴食による体重の増加、ニキビやアトピーが目立つようになっていた。ある日彼は久しぶりに鏡を覗いた、変わり果てた自分の姿を見て思った。        (殺されても文句言えねぇわ・・・)

そして彼は平穏を手に入れた・・・偽物の平穏を。


ーー卒業式はとても楽だったよ。ずっと待ち望んでいたからね! 卒業証書?卒業アルバム?あぁアレね、家帰って捨てた。



高校はどこ行くの?俺、頭悪いから普通の高校いけないよ? 「試験とかないから、面接だけ。」

どんなとこなの? 「アンタみたいなのが沢山いるところだよ」

みたいなのってなんだよ・・・ははは 「・・・・・・」

「そう言えばあんたもう少しで卒業なんだから証明写真撮らないとだよ・・」  わかってんよ・・・。

「アンタ将来の夢決まってんの?」  うん?・・・・・・・・・・・・・


・・・またこの夢だ。俺はよく夢を見る。同じ夢を何回も見ることもあるし、初めて見るものもある。

さっきの夢はよく見るやつだ。嫌な夢だ。孤独を感じていたり、悩みがあるときによく見る嫌な夢だ。

新しい夢を見たのはいつだったかな?  えっとぉ〜 そうだ、二、三日前学校の教室で居眠りしてたときだったっけ。

小薬なんとかっていう奴が出てきて、なんかやってたな。 それにしても鈴木のやつ、俺が気持ちよく眠っているというのにあんなでかい声で起こしやがって許さん 「頭にきますよ!!」そう言って田中は布団から飛び起きた、そして足をつった。

朝食を済ませた田中は洗面台の鏡に映る自分の顔を眺めながら歯を磨いていた。そして右足をさすっている、この男以外に器用 それにしても俺、高校入ってから結構痩せたなぁ、前は結構太ってたんだけど、まだまだ結構贅肉あるけどほんと痩せたよ前に比べたら。それに顔も綺麗になったよなぁ、アトピーとか完全に完治してるし、ニキビとかもだいぶ治まってきた。

やっぱりストレスのせいだったのか?


俺が間もない頃、やっぱり俺は孤立するもんだと思ってた。でもしなかったんだよ・・孤立しなかった、話しかけてくれたんだよみんなが、だから俺一生懸命返したんだよ、そしたらみんなが返してきたんだよ、俺ビックリしちゃったね!俺の話聞いてくれんの?俺がおはようって言ったらおはようって返してくれんの?まじで!?て思ってたんだよ、そん時それが当たり前の事だって事を思い出したんだよ。


「ぬぅわぁぁあああああんっっ俺らもう二年生かぁ・・・」「どうした?お前いきなりそんなこと言って・・・」大きく欠伸をしながらそう言った田中に対し、怪訝な表情を浮かべながら鈴木がテーブルに突っ伏した体制でそう答える。

鈴木もかなり眠いのだろう、夜更かしのしすぎで目の下に隈ができている。「鈴木お前何時まで起きてたんだ?』「四時」

「ん?」「四時」「は?」「だから四時!朝の四時!わかる?」「ほとんど寝てねぇじゃねぇか」「そうだよ、オメェはどうなんだよ田中」ややキレぎみの鈴木に対して茶化したように笑い「10時」と答えた瞬間鈴木のチョップが飛んできた、「良い子かテメェ!食らってくたばれ波●疾走!!コオオオォォ・・・ッッ!!」「マ〜ヌ〜ケェ〜がぁッ!そんなとろくさい攻撃がこの田中に!この田中に!!通用するとでも思っているのかアァ!!」掴んだ!しかし、それがいけなかった!

鈴木は左利き、左手のチョップ!それを右手で受けた右利きの田中!必然的に鈴木が田中の親指を握ってしまう形になる!!

「お慈悲〜お慈悲〜」「駄目です」「ああああああああああ」鈴木は握った田中の親指を時計回りに行き良いよく曲げる

「タオッ!」田中のバランスが崩れる。そしてすかさず親指を反時計回りに回す「ミチ!!」さらに駄目押しで親指を上に引っ張り上げ手を離す。「アゴッッッ!!!」 沈黙。田中は右手の親指を抑えてぷるぷると震えている。鈴木は田中の親指を離した体制で固まっっている。十数秒間沈黙の後、お互いに指をさして笑い出した。「なんだよタオ!ミチ!!アゴ!!!って!?」「うるせぇな!いきなりグルグル親指回しやがって変な声出ちまったじゃねーか!!」

二人が騒いでいると、チャイム音が教室に鳴り響く。すると突然田中が立ち上がり、「やべ、ロッカーに教科書わすった。」

「田中ァ俺のも頼む」「お前のロッカーの番号なんか知らん」「つっかえ!」二人はそう言うと席を立ち、ロッカーに教科書を取りに向かっていくのだった。

____________



   (__これは夢だ。)田中は目の前の光景を見て直感した。(ここは・・・洞窟?いや鍾乳洞か?)

(それにしてもこの場所、かなり広いぞ。)田中の立っている場所は一見鍾乳洞のようにも見えるが、やはり実物と比べて不思議な点が幾つか目立つ。まずはこの広さ、異常なほどに広くちょっとした屋敷なら立てられるのではと思わせるほどである。二つ目はこの地面、明らかに人の手が入っている。真っ平らで傷一つなく綺麗に、白い。そして三つ目、前と後ろにある扉、後ろの扉は鉄でできていている、所々に穴が空き、そこから白い光が溢れていてひどく錆びている、少し触っただけで崩れてしまいそうなほどに。前の扉は対照的に強くしっかりとした木造の扉でなぜか秋を思わせる装飾が施されている。

(後ろの扉を開けたら、多分夢が覚める・・・けど・・・)「これ、何とかしないといけないんだよなぁ・・・」

秋の扉を見つめながらそう言った田中の右手には、いつの間にか<傷だらけの蝋燭>が握られていた。

田中は迷わずドアノブを回し前に進む、(インクの匂い?それと、コーヒー?)田中は思わず立ち止まる。

目の前には左右両サイドにずらりと並んだ巨大な本棚たち、規則正しく本棚に収納された大量の本、田中がその中から本を一冊手に取りページをめくる、がしかし、タイトルも内容も全て英語で書かれているため田中には読めなかった。

田中は舌打ちをした。

巨大な本棚たちに挟まれるように大きく長いテーブル、その上には蝋燭とコーヒーが並べられていた。

「この蝋燭たち、ほんの少し特別な感じがする」そう言い残して田中は時間がないと部屋の奥に進んでいった。

暫くしてから襖を発見した、いきなりである。「襖・・・」そう襖を発見した。「えぇ・・・」田中は振り向く、後ろには年代や品を感じるアンティーク達、よく見れば蝋燭やコーヒーカップまでもが上品である。左右を見れば高価そうな本、高価そうな本棚、下を見れば踏むのが失礼だと思えてくるほど芸術的な絨毯、上を見ればシンプルながら美しい照明が白ではなく、黄色やオレンジ色に近い暖かな光で自分を照らしてくれている。そして前を見れば「襖を発見しましたっ。」その声はイラつきを隠しきれてはいなかった。

襖の向こうは和室だった。「結構広いな、それに」田中は視線を下に落とす「蝋燭がある、しかも、火がついてるやつもある。」さっきの部屋にはなかったぞ、こんなもの(火のついた蝋燭)は、一つもなかった。それにこの部屋もおかしいところがたくさんある。「なんで爪楊枝がこんなにも大量に?」田中が見つめる先には大量の爪楊枝が、火のついた一つの蝋燭を中心に散らばっていた。「調べたいんだけど、時間がない・・・気がする、次の部屋に入るための扉は・・やっぱりこれだよなぁ・・」田中が見つめている場所には本来あるわけのないものが存在していた。それは、「シャッター?」和室の中にシャッターありえない組み合わせだ。「雰囲気壊れる〜・・・こんなことやってる暇じゃねぇな早く進まないと。」

体全体に力を入れてシャッターを上げる。見えた景色は、「スクランブル交差点!?」


信じられない、スクランブル交差点だ・・・テレビでしか見たことがない、それに蝋燭の数も異常だ火がついている奴とか、大量にある。

ていうか、元の和室に戻ろうとしたらいつの間にかシャッター消えてるし、移動するための扉見つかんねーし、どうしたもんかねぇ・・・。そういえば今、昼なのか?某死神漫画を連想させるほど世界が白い、どうなってんだこれ?

「ーーー疲れた」 駄目だ・・・扉が見つからない、今まではすぐに見つかったのにいきなり難易度上げてきた。

ここから出ようとするとこの場所シャッターがあったところに戻されるし、周り探してもやっぱり何もない、お手上げ状態だ。

田中はその場に腰を下ろし休んでいる、ポケットの中に蝋燭があることを思い出した田中は、それを調べることにした。

「大きさは20センチくらいで、傷だらけ、火はついていない、あとは・・かなり頑丈、鉄みたいに硬くて意外と重たいですねぇ・・」「ただそれだけ・・」田中はそう言うと両手を広げて後ろに倒れこむ、右手に持っていた蝋燭がマンホールの蓋にあたり大きな音を出す、マンホールの中で音が反響を繰り返し次第に小さくなってゆく。「音・・・・・・ファッッ!?!?」

突然素っ頓狂な声を出した田中はマンホールの蓋に思い切りしがみつき、「お前が扉か!!」そう叫んだ。


梯子を下りた先には通路があった、奥の方に扉が見えるがそれよりも気になる物がある。蝋燭だ。通路の両端一列に並べられている。興味を惹かれたのはその見た目と、「強い特別?」なんとなくしか解らないが、なんとなく解る。意志を感じる。

(二メートルくらいあるかな?この一番大きくてアメリカの国旗が巻き付けてあるやつ)強い正義を感じる。

(紫色の蛇の蝋燭)退屈と孤独を感じる。

(グネグネと卑屈に曲がった性格の悪そうな蝋燭)全ての社会に対する絶望と挑戦を感じる。

(水玉模様の蝋燭)ストレスを感じる。

(寄り添う二羽の小鳥の蝋燭)愛情と葛藤を感じる。

(骨でできた蝋燭)制欲と狂気を感じる。

(正義と書かれた蝋燭)正義に対する憧れを感じる。

「こんなに沢山あるなんて、しかもみんな火がついている」

そしてついに扉の前にやってきた。「さて、行くか・・・」そう言ってドアノブを回すため、右手に持っていた蝋燭を左手に持ち替えた時、それは起った。左手に熱を感じる。(燃えている!?火を点けたわけでもないのに!)そして彼は理解した、この蝋燭が一体どういう物なのか。 


               (傷だらけの蝋燭)強い恐怖を感じる。


扉の先はーー。 「白い部屋?」そこには、真っ白な部屋があった。どこを見ても白、白、白、広さは六畳程度。高さは三メートル前後といったところだろうか?真ん中には黒一色の丸天板型のサイドテーブルが一つポツンと佇んでいる。

その上には火のついた蝋燭が数本立っている。そして彼は感じ取っていた。目の前の蝋燭達から伝わってくる意志を、先ほどの通路で出会った蝋燭達よりもはるかに強い思いを、田中は感じ取っていた。


(背が高く火が忙しそうに燃えている蝋燭)生きる意味とは何か?

(白衣を着た蝋燭)復讐してやる・・・

(日本刀の形をした蝋燭)奴を止めなくては!!

(様々な生物の絵が描かれている蝋燭)この拾われた生命、どうやって使おうか?

(木でできた蝋燭)意地でも死なねぇよ

(月桂樹の黄色い花が描かれている小さくて可愛らしい蝋燭)せかいせいふく!!

(サルビアの赤い花が描かれている小さくて可愛らしい蝋燭)みんなを守らないと!!

(黒い蝋燭、碧い火が揺れている)ゆっくりと慎重に、もう間違えないように、前へ・・・

ーーあとは、こいつだけか。

(一見普通の蝋燭だが、妙に気味が悪い)「気安く触るな」「見てんじゃねぇよ」「切断するぞ貴様」

「うおおおお?!?!?!」驚きのあまり体がびくりと勢いよく飛び跳ねる。つい放り投げてしまった。蝋燭は部屋の隅に転がっている。火は消えておらず、その気味の悪さ、気色悪い違和感を、その蝋燭は発し続けていた。

「ーーなんだ・・・今の・・声?後ろから聞こえたけど、誰もいねぇ・・・・いねぇよな?」

汗が吹き出る、心臓が痛い、喉が渇く、呼吸が荒くなり鳥肌が立つ、気持ち悪い。あれを元のテーブルに戻さなきゃいけないんだけどけど、無理、とてもじゃないが無理だ。もう触りたくない、近づきたくない、見たくもない。


そう思った田中は放り投げた蝋燭から目をそらす。「ん?」彼は何かに気づいたようだ。「このテーブル・・・さっき蝋燭があったところが・・・」窪んでいる・・・蝋燭が倒れないようにするためのものなのか、それとも別の意味があるのだろうか。その時、田中は左手に強い違和感を感じた。「!! ・・・・・・・・置けっていうのかよ」田中は左手に持っていた(傷だらけの蝋燭)に、そう問いただす。蝋燭は悲鳴をあげていた。キリキリとまるで刃物同士を押し付けているような、嫌な音を上げている。「わかった、置くよ、置けばいいんだろう?」そう言って田中は迷うことなく窪みに蝋燭を挿入した。 



瞬間、部屋と意識が深い闇に飲み込まれた。 テーブルの上の蝋燭達は寄り添うようにお互いを照らしていた。










 


                       

カリカリカリ  メキ  パキ ゴリ ゴキ カチカチ   カンカン カラカラカラ・・・     ガチリ・・・・・











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