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ひまわりの記憶  作者: 紗倉ミョウ
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「超がつくほど真面目だね」

 中学生時代。僕はとある女生徒にそんな事を言われた。なぜかと聞いたら、

「学生にとって貴重な休み時間を勉強に使うなんて真面目」

 と言われた。確かにそうなのかもしれない、と十年経った今の僕は思うようになっていた。

 当時の僕は、テストの成績はいつも上位、日直の仕事はそつなくこなす、休み時間には勉強、家に帰っても勉強、予習復習は欠かさない、と絵に描いたかのような優等生だった。

 そんな優等生な自分を思い出しながら、蝉が絶叫するほどの暑い夏、僕はスーツを手に抱え、ワイシャツの姿で公園のベンチにだらしなく腰掛けていた。

「暑い……」

 つい声が漏れてしまった。周りに人はいないので、この独り言を耳に入れる人は存在しない。僕が発した言葉は空気の中に溶け込み、誰も知らないままに暑さの一部となる。手で扇いでみると、顔に少ない風が当たった。頬の一部が少しひんやりしたが、すぐにそれは無くなった。

 今、僕は会社の昼休みを近くの公園で過ごしている。今日は社員食堂で家から持参した弁当を食べた。時間が思いの外余り、少し外の空気を吸いたくなった。同僚に散歩をしてくると伝え、僕は外に繰り出し、職場近くの大きな公園へ行き着いた。公園は町のど真ん中にあり、若者や老人、小さな子供達とそのお母さんなど、幅広い年代の人間達がそれぞれのお昼を過ごしている。

 陽気な空気が公園中に充満している。ここで昼寝をしてしまえばどれだけ気持ちが良いのだろうか。そんなことを考えたら、瞼が重くなってきていた。

「いかん、いかん」

 睡魔に連れて行かれそうになっていた僕は、自分の頬をビンタする。一回では目が覚めなかったので、二、三回繰り返した。

「そろそろ戻るかな」

 昼休みの時間も終わろうとしていた。僕は重たい腰を上げ、会社へ戻ろうと歩き始める。

 帰り際。公園の出口付近で、ふと視界に黄色いものが入り込んだ。僕は足を止める。

 それは向日葵だった。花壇に植えられた四つの向日葵。みんな太陽を見つめていた。

『向日葵を見てると、自分も上を見なきゃって思えてこない?』

 いつの日かこんな事を僕に言った人がいた。向日葵と一緒に太陽を見てたら目がつぶれてしまうよ、と僕が冷やかしたら笑っていた。

 向日葵を見ると、僕はいつも中学時代の夏を思い出してしまう。なぜなら、向日葵に深い思い入れが出来た夏を過ごしたからだ。

 あの頃の夏は今よりもずっと長かった。しかし、今よりもずっと一瞬で、かけがえのない日々だった。

 向日葵に染みついた思い出が、僕に中学時代の記憶を呼び起こさせる。

 今までで一番、太陽が熱を放っていたあの夏。僕は『早川水紀』と一緒に向日葵を見たのだ。

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