おうち
おうちは、シンプルだった。
黒を基調としたお部屋は、男性の独り暮らしとは思えないほど片付いていた。
どうなってもいいと思って家を出たのに。
どこに飛び込む勇気もなくて。
結局、見ず知らずの人に助けてもらい。
1人では、なにもできていない。
寛也さんに、促されて、とりあえず親へラインを入れた。
少し自分で考えたい。友達の家に泊まるから心配しないで。1週間したら帰る、と。
すぐに返信があった。
友達って誰なの?どこに泊まってるの?電話に出なさい!
電話は、うるさいくらいなっていた。
知らないふりをして、膝をかかえた。
「コーヒー飲める?」
「飲めない。苦いもん」
そうか〜。と言うと寛也さんは、またくしゃりと笑って、わたしの頭を撫でた。
コトリ。
テーブルに可愛いサンタのマグカップが置かれた。
「甘いのなら大丈夫かと思って、カフェオレにしたよ。ヘーゼルナッツのシロップ入り。
ここのコーヒー美味しいんだ。
俺は、オトナだからブラックだよ」
甘いカフェオレは、ほのかにヘーゼルナッツの風味がして
ぼろぼろのココロにしみた。
「なんで、家出したの?とか聞かないの?
どこから来たの、とか…。
聞きたいこと、聞いてくれていいよ。
泊めてもらうし」
「それ、答えたい?」
不意に真剣な目をして寛也さんが言った。
「君が話したいんだったら、いくらでも聞く。でも、話したくないなら話さなくていい。
そもそも。
自分の気持ち、いま、上手く説明出来る?
今、君は、嵐の真っ只中なんだよ。どこに向かっているか、何を目指していたかも分からない。
だって、嵐の中で前は見えない。
でも。
嵐はずっとは、続かないから。
雨や風がおさまったら、前が見えて来る。そしたら、進むべき道も見えるよ。
だから、
話すのはその時でいい」
俺もそうだったしね〜、そう言って、またくしゃりと笑った。
なるほど。
さすが、大人だ。
そう思ったけど、そう言うのは、なにか悔しい気がして
「名前。
名前ちゃんと名乗ったんだから、名前で呼んで。
よう、だから。わたし」
とだけ、言った。