シシリアンライス
「ここ、行きつけなんだ」
オトコの人は、勝手にゴハンを注文した。
「ほら、食べて。あったかいうちに。美味しいよ」
確かに、美味しそうだった。
湯気を立てた、ゴハンにはサラダと焼肉が乗っている。シシリアンライスって言うんだ。地元のB級グルメ、
そう言って男の人は、ゴハンをかきこんだ。
美味しそうに食べる人だなぁ。そう思いながら、ぼんやりと眺める。
こんな状態じゃなかったら、喜んで食べたけど。
わたしのココロは、ぼろぼろだった。
喉の奥に涙が詰まって
苦しい。
また、涙がこぼれた。
なんで泣いているか自分にも分からない。
「美味しいもの食べて、たっぷり寝たら
だいたいなんとかなるよ、人生って」
「…今、食べる気がおきないし、今夜寝るとこなんてない」
わたしは、なかば睨むように男の人に言った。
「中学生?」
「…高校生。1年」
「俺は、25歳。社会人だよ。
むかし、家出したことあり。今日は、たまたま車を修理に出してて電車に乗ったんだ。そしたら、かつての自分みたいな目をした子が目の前に居て思わず声をかけた。自分で言うのも変だけど、声をかけたのが、俺でよかったね。
悪い大人だったら、大変だったよ?」
「…。
まだ、いい人かどうかは分からない」
「はははっ。確かに」
男の人は、そう言って笑った。
やっぱり、トイプードルに似ていた。
おじいちゃんのイヌ、名前はなんだったかな。
あんなに可愛がっていたのに、全然思い出せない。
「で?
家出でしょ?帰るの、今日?」
「…帰らない。今さら帰れないし」
「うーん。
どうしようか。
出会ったばかりで信用出来ないとは思うけど、うちくる?
気持ちが落ち着くまで。
その代わり、家には連絡するんだよ。
友達の家に少し泊まるって。
あ、もちろん、俺、カラダ目的とかないからね。
そもそも、高校生に手を出す趣味なんてないし。
女の子には、不自由してないから」
それだけイケメンだったら、それは、不自由しないでしょうね、と言いかけた言葉を飲み込んで
わたしは、
「花野 曜はなのよう。15歳。お金は1万しか持ってないです」
と答えた。
「添田 寛也そえだひろや。25歳、は、さっき言ったね。
公務員だよ。身元は、しっかりしてるから安心してね。
さ。とりあえず、この名物料理を食べてよ。うち、料理しないから何もないんだ」
わたしは、寛也さんの笑顔を見ながら、なんとなく気持ちが落ち着いてきたのを感じた。
全部は食べられなかったけど、確かにその名物は美味しかった。