約束
旅立つ前夜、少年は月のお姫様と何を約束したのだろうか…
颯side
「これで…よしと…」
荷物の整理を終えた俺は一息つこうと自分の部屋を出ると縁側に座る。
「ふぅ…」
空を見上げると今日も綺麗な満月だった。竹林から見上げる満月はこれだけでも幻想的だが虫の声も合わさってより幻想的な雰囲気を醸し出している。まるで一週間前に戦いなんかが無かったと思わせる空間がそこにあった…
「1人でお月見は寂しくないかしら?」
振り返ると輝夜がおぼんに団子とお茶を乗せて歩いてきた。
「お月見というか息抜きみたいな感じだからな。別に寂しいとは思わなかったぞ。」
「はいはい…ほらこれあんたの分。」
「おっサンキュー。」
お茶を受け取り、早速一口いただく。美味い…
「いよいよ明日ね…」
輝夜が月を見上げながら言う。
「まったく…月の連中と来たら…しつこすぎてもう何回目かも覚えてないわ。」
「へぇー…」
かなり機嫌悪そうだったのに…輝夜怒ってないのか?
「何よ…その気の抜けた返事は!」
ムスッとした顔でこちらを見る。
「い、いや!怒ってないのかな〜って思って…あっ…」
あっ…しまったと思ったが時すでに遅し口から出た言葉は戻って来ない。これは怒られても仕方ないか…
「あのね…」
ヤバイ!…覚悟を決める。
「確かにさっきまでは止めたかったわよ。でもね…颯…あんたは私なんかが止めるよりも自分自身が選んだ道を進む方がいいと思っただけよ。」
「…輝夜…」
「心配だけどさ…颯弱いし…」
「一言余計だ。」
確かに弱いけど…
「それに私みたいに永遠の命があるわけでもない…だから…だからこそ1つだけ約束して欲しい…」
「どんな約束?」
「別に無茶をしてもいい…怪我をしても、どんなに馬鹿にされても笑われてもいい…死なないで…」
少し輝夜の声が震える…
「…あぁ…約束する。」
「それじゃ私寝てくるわね!おやすみなさい!!」
こっちを振り返らずに走っていく。
「ちょっ!待っ…!」
腕を掴もうとしたが咄嗟の判断でやめる。輝夜は寝室へと走って行った…そんなことよりも…あいつ…
「泣いて…た…?」
死なないで…少年に放たれた言葉は蓬莱人である輝夜からすると当たり前のことだが、人間の命は恐ろしいほど脆く簡単に失われてしまうものだ…