個体数調節理論って本当に存在するの?
『あなたは、個体数調節理論をご存知ですか。集団が増えすぎると群として自ら減らす方向に動く。事実、増えすぎたレミングが大量自殺するという現象がある。生命が集団として持っている当然の流れなのだ』
『つまり私たちが巻き込まれた戦争は、種としての生存のために引き起こされたっていうの。そんな……なんてこと……』
「あ、これ知ってる。実際デマなんだよ。虐殺器官で知ったわ」
「ふうん」
「まあこの後デマだって伝える流れでしょ。当たったら褒めてくれよ」
「兄ちゃんドヤ顔でそんなこと言わないでよ。私だってそれ聞いたら想像つく流れだからさ。このキャラ、使ってる声優からして悪役っぽいし」
「なあ。でも、戦争が起きるのって実際には個体数調節なのかな」
「違うんじゃない? 人が増えすぎて、エネルギーや食物が減れば戦争なんて勝手に起きるでしょ」
「そうか。じゃあ自殺するのは?」
「どっちかというと、淘汰だと思う。この社会環境に適応できなかった人がドロップアウトしてくだけ」
「じゃあ個体数調節なんてもんないのかね」
「と思うよ。どう考えたってあり得ないでしょ。増えすぎてるから種が集団レベルで数を減らすように動くなんて」
『ちょっと。何するんですか。止めてください! なに人の胸触ってるんですか!』
『おっと、気落ちしてるのかと思ったら、元気じゃないか。アタシはそのぺしゃんこな胸のように気まで萎えてしまってるのかなと確認したまでさ』
『……死ね!』
『なんだ? 巨乳への妬みか?』
『死ね! 死ね! 死ね!』
『はあ。先輩たちは元気そうで安心ですねー。心配して損しちゃいましたよ』
「うへへ。可愛い」
「兄ちゃん本当好きだね。この萌えアニメ」
「萌えアニメじゃないの。質アニメなの。ほら、こんなダークな話じゃん」
「とか言って、ほとんど女性キャラじゃん。胸ブルンブルン揺れてるし」
「……いや、まあそうですけどね。ああ、やっぱ二次元っていいわあ……かわいんだよこの子」
「ふうん。あ、でも私このキャラとこのキャラ好きー」
「もう結婚するとしたらこの子がいいね。三次元の女なんかよりも絶対いいわ」
『そんなんだから騙されるんだよ。あいつの言うことなんか、真に受けやがって』
『え? どういうこと?』
『個体数調節理論? あんなの嘘っぱちだってことですよ』
「……個体数調節理論ね」
私はふと、今日見たニュースを思い出す。
結婚に興味がない若者が増えている。
二次元に逃避する若者たち。
出生率はまた1.4人を下回ったと――