表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
備忘録1 生きにくさの根っこ  作者: 小日向冬子
わたしを形作るもの
7/60

人魚姫

 あの頃。


 子どもなりに、ぎりぎりの精一杯で生きていた。


 なのに、これほどたくさんちゃんと好きなものがあった自分に驚く。


 一歩間違えば死んでいただろうあの崖っぷちで、必死につかんでいた輝き。


 けれど今、その熱量はいったいどこにいってしまったのだろう。



 人と同じように振舞うことに全精力を注いできたその後の長い時間の中で、普通っぽい仮面を手に入れることと引き換えに失ってしまたものたち。


 ありのままのかたち。



 だって、剥き出しの自分は苦しすぎたのだ。


 体中を棘で逆なでされてるみたいに、何にでも器用に傷ついたあの頃。


 みんなと同じになれるのなら、何を失ってもいい気がしていた。


 人になるのと引き換えに、声を失った人魚姫のように。



 今わたしは、あのときの願いどおり、大勢の人々にうまく紛れて平和な時間を過ごしている。


 なのに、のっぺらとした穏やかな日常の中で、時折子どものわたしがむくりと頭をもたげて問いかけるのだ。


「それでは聞くけれど、あなたは今、なにをつかんでいるの?」


 その問いになにひとつ答えることができない自分に愕然とする。


 今のわたしは、ほんとうに生きていると言えるのだろうか。



 あんなに願ったことなのに。


 どうして辛かったはずの過去ばかりが、本物のように思えてしまうのだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ