変な子
子どもの頃、排気ガスの匂いが好きだった。
収穫した野菜を軽トラックに積み込んで、父が市場に向かう。
それを見送った後に、庭に残された排気ガスを思い切り吸い込んでは、うっとりする。
もちろん母に見つかるたびに怒られる。
「そんなもん吸ったら体に悪いだろ!」
土を食べる癖もあった。
長靴の底についた泥が固まって落ちた、その欠片をこっそり口に入れる。
じゃり、という感触が、病みつきになる。
もちろんこれも、見つかれば大目玉。
体に悪いと言われても、子供のわたしにはピンとこなかった。
それよりもとにかく嗅ぎたくて、食べたくて、親の目を盗んでは車の後ろを追いかけ、土の欠片を口に含んだ。
大きくなってふと気になりネットで調べてみると、どうやら異食症というものがあるそうで。
たとえば栄養状態が悪かったり、あとはストレスなんかでもなるらしい。
考えてみれば、わが家の食事は実に貧しかった。農家だったからご飯のおかわりはいくらでもできたけど、おかずはほとんど野菜中心で一品だけ。小学校入学前に親戚の家で初めて唐揚げを食べた時、あまりのおいしさに卒倒しそうになったくらい、肉には縁がなかった。
おまけに、これは大きくなってわかったことだが、わたしはどうやら血が薄い体質のようで、献血でも比重が足りずにいつもひっかかる。もしかしたらその頃から、その傾向はあったのかもしれない。
なるほど。
そう考えると、当時のわたしはただの変な子だったわけじゃなく、変な行為にはちゃんと原因があったってことか。
それに気付いたときわたしは、ほんの少し、おかしな自分を許せる気持ちになれたのだった。