帰りたい
鬱々とした精神状態のままに、わたしは高校生になった。
バッジのついた真新しい制服に袖を通しながら、ひとつだけ、心に決めたことがある。
それは――友達を作らないこと。
親友のマリコは、私立のお嬢様学校へ進学した。
わたしは、地元の女子高へ。
道は、分かれてしまったのだ。
人の心は、変わる。
どんなに「ずっと親友だよ」と繰り返したところで、いつか他の誰かと、親しくなるに違いなかった。
「マリコだけ」そう思っていた過去の自分を、ひらりと裏切って。
だからといって、マリコにしがみつく気もなかった。
彼女が新しい世界を作り上げていくのを、見たくなかった。
ただ思っていたのは、
そうやって、誰かを傷つけてしまうくらいなら。
誰かを傷つけたことで、自分も傷つくのなら。
いっそのこと、もう誰とも関わりたくない。
心を殺して、ひとりで生きていきたい。
今ならわかる。
こういう度を越した潔癖さが、自分自身を追い詰め、わたしの世界はますます歪になっていったのだということが。
けれど、その頃のわたしには、どうしてもわからなかったのだ。
そうする以外、どうやって、人と関わったらいいのか。
クラスメートとは、必要最低限の会話しか交わさないようにした。
休み時間になると、すぐに視線を落として、ひとりで本にかじりついた。
そうしてわたしは、わたしを監視し続けた。
誰かに心を許すことなど、決してないように。
が、皮肉なことに、そんなわたしの姿が逆に、読書好きのクラスメートの興味をひいてしまったようだった。
毎日のように一緒に帰ろうと誘ってくる彼女。
わたしはそのたびに、何かと理由をつけて突き放した。
が、それでも屈託のない笑顔で、声をかけ続けてくれる。
仕方なく駅まで一緒に帰ったりもしたが、心は固くガードしたままだった。
後々になって、彼女が別の友達の前で泣いていたことを知った。わたしに冷たくあたられるのが、とても辛いと言って。
ごめん、決してあなたを嫌っていたわけじゃないんだ。
自分の辛さしか見えていなかったわたしは、ここでも周りの人間を、無神経に傷つけていた。
もともと何の希望もないままに始まった高校生活だったけれど、時が経つにつれ、わたしはますます無気力になっていった。
いつも頭がぼんやりと重く、何もやる気が出なかった。
どうせ、最後は死ぬのだから。
そんな思いがついて回る。
眠りこんでいるフリをして、電車を下りの終点まで乗り過ごし、わざと遅刻をした。
窓の外では、金色の麦畑が風にたなびいている。
その光景を見ながらわたしは、心の中でつぶやいていた。
帰りたい。
心が現実ではない場所に、ふわりと引っ張られていくような気がした。
ここではなく、どこでもなく、ただ、泣きたいほどに懐かしい場所へ。
その感覚は、それからもしばしば、疼くように胸を訪れた。
どこにいても、それが自分のいるべき場所ではなく、何をしていても、やるべきことではない気がして、たまらなかった。
帰りたい。
でも、いったいどこに?
その問いを胸の内に何度も繰り返しながら、わたしの頼りない高校生活は過ぎていった。