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第二章 4
誰か助けてよ――。
突然頭の中に響いた声。トヨヒサはかけ布団から頭を出して、周囲を見回した。外観と同様に鮮やかな赤い壁が目に入り、置行灯の火がぼんやりと室内を照らしあげていた。
「なんじゃ……今の」
「もしかして、あなたも?」
トヨヒサの身体の下で、敷布団に寝そべる黒髪の遊女が言った。自分と同じで一糸まとわぬ姿の彼女を見下ろしながら、トヨヒサは眉根をひそめる。
「あなたもって、手前も聞こえたんか? 助けて、って」
「はい……なんでしょうね、今の」
「この遊郭で死んだ女の霊とかか?」
「やだ……怖いこと、言わないでくださいよ」
黒髪の遊女がトヨヒサの首に手を回し、自分のほうに抱き寄せた。トヨヒサはそれに逆らわず、彼女のたわわに実った白い双丘に自らの顔をうずめる。
「しょうがない奴じゃのう。そんなら、戦さながらにやっちゃるかのう」
「楽しみですわ、トヨヒサ様」
竜狩りの民と遊女は目を交し合い、かけ布団の中にもぐった。