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竜侍  作者: 栗山明
第一章 2
20/30

第三章 3

トヨヒサは急かされるように目を覚ました。

心臓が左胸の奥で跳ねている。

また、ヒサヨが死ぬ夢を見たせいだ。

これまでも見ることはあったが、最近は頻度が増えている。

(マヒルのやつに会ってから、よう見るようになったな……)

 まるで今まで目を背けていた事実を、突きつけられているような気がした。

状況を確認する。自分は岩に背にあずけ、斬竜刀を抱きかかえている。空は青白く、空気が肺を冷やす。早朝のようだ。周囲を見回すと、マヒルを見つけた。

(なにしとるんじゃ、あいつ)

彼女は太めの幹に向かって、少し離れた距離から手をかざしていた。

幹をにらみつけるその碧眼は、真剣そのものだった。

「むりゃああああっ」

 マヒルは叫んだ。

 遠くのほうで、鳥が飛び立った。

 静寂。

 しばらく手をかざしつづけた彼女は、なにかをあきらめたように肩を落とした。

「手前、なにがしたいんじゃ?」

「あ、おはよう。見たらわかるでしょ? 念力の練習よ」

「練習?」

「だってほら、あたし竜人になってから、ぜんぜん念力の練習してないのよ。しかもあたしの場合、混血だからなのか――息吹とか脂もそうなんだけど――力を使うのが難しくてさ。なんか身体から力の流れは感じるんだけど、うまく使えないのよね」

「で、練習か。――よし、俺が教えてやろう」

「え、マジで? どうするの?」

 トヨヒサはマヒルのそばに立ち、胸の前で腕を組んだ。

「まずは背筋を伸ばせ」

 マヒルは背を伸ばし、

「次にひざをつけろ」

 地面にひざをつけ、

「手もつけろ」

 両手を地面につけ、

「頭を下げろ」

 頭を下げた。

 トヨヒサは彼女に向かって、

「おもてをあげぇーい」

 殿様のように言った。

 ゴスッ。

 頭突きをされた。

 脇腹に。

「痛いじゃろ」

「死ね! あんたなんか死ね!」

「ほんとに死にかけたぞ」

 マヒルがふてくされたようにほほをふくらませる。

「せっかくあたしが念力を使って、サポートしてあげようと思ったのに」

「まったくもって余計なお世話じゃ」

 鼻で笑うトヨヒサ。しかし、彼女の気遣いが、ちょっとだけうれしかったりもする。

 すると小さな指が、トヨヒサに突きつけられた。

「だってあんた、力を使わないじゃない。というか、なんで使わないの? あ、もしかしてあんた――竜人じゃないの? エセ竜人なの?」

「そんなわけあるか。きっちりかっちり竜人じゃ」

「なら、念力を使って見せてよ」

 困ったことになった、とトヨヒサは黒髪をかいた。

(……もしかしたら、使えるようになっとるかもしれんな)

 ここ最近、自分の内面に変化が起きているような気がする。だからもしかしたら、今なら竜の力が使えるかもしれない。そう思って、トヨヒサは木の幹に手をかざした。

 頭からつま先まで、まるで静電気のように身体中に帯びる思念の力を、皮膚を通じて物理的な力――念力に変換。突き出す掌に意識を集中させる。ほんのりと掌が熱くなり、そこから水のような透明な力があふれ、息を吐くように力場を形成――する寸前。

 視界が漆黒に染まり、一対の赤い光点が出現。竜の瞳が闇の中から浮かび上がる。次いでトカゲのような顔が現われ、そのせり出した口の中に上半身だけのヒサヨが――。

 吐き気。

トヨヒサはひざをつき、口元を手で押さえる。掌に集められた力は霧散した。

「ど、どうしたのよ?」

 心配そうにマヒルが声をかけ、背中をさすってくれた。

 やはりダメだった。ヒサヨが死んで以来、力を使おうとするといつもこうなる。妹を殺した竜と同じ力を使うことに、どうしようもない嫌悪感がわきあがってきてしまう。

(弱い。俺はとてつもなく弱く、臆病じゃ。どうしようもねえ……)

 一人でうなだれていると、

「大丈夫? なんか、ごめんね。無理させちゃって」

「ああ、大丈夫じゃ。俺のほうこそすまなか」

 トヨヒサは腰をあげ、深呼吸をする。すぐに落ち着いた。

そんな彼の様子を見ながら、

「やっぱり、あたしがいないとダメね」

 なんてマヒルに背中を叩かれた。彼女なりに気を使ってくれているのだろう。しかしトヨヒサは、たよりないかもしれないが、俺が手前を守ってやる、なんて思った。

 しかし素直に言う気はなく、

「力をまともに扱えるようになってから言え」

「あんたもね」


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