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竜侍  作者: 栗山明
第一章 2
18/30

第三章 1

 第三章


「ねえ、もう大丈夫なの?」

「大丈夫じゃない」

 話を聞きおわったトヨヒサは、さっそく出発することにした。馬を引いて林の中から山道に戻り、鞍にまたがる。またがるときに脇腹の傷が苦痛を訴えてきて、顔をしかめる。

 するとマヒルが心配そうな顔で見上げてくる。

「じゃあもうちょっと休んでもいいんじゃない?」

「いつ追手がくるかわからん。言っとくがあいつら、俺より強いぞ」

 マヒルを引っ張り上げて、逃げ出したときと同じように、自分の前に座らせる。

「え、マジで?」

「しかも俺は傷を負っとるからな。まあ、十中八九負けるじゃろ」

「でもあんた、竜の力を使ってないじゃない」

「それは、まあ」

「なにか理由でもあるの?」

 ある。しかしそれを言う気はなかった。

 トヨヒサは馬の横腹を蹴り、走らせる。いきなりのことだったので、マヒルの身体が後ろに引っ張られて、トヨヒサの胸に後頭部をぶつけた。

「いたっ。走らせるときは、ちゃんと言いなさいよ」

「ざまあみろ」

 鼻で笑うと、マヒルが唇をとがらせた。

「あんたってかわいくない。あたしは美少女だけど」

「それ、付け加える必要あったか?」

 馬は曲がりくねった山道を、へばらないようペースを保って走る。

山道の右手には林があり、山頂に向かうにつれて木の背が段々と低くなっている。左手には丘陵の奥から昇る朝焼けで朱に染まり、どこか寂莫たる麓の景色があった。

「うわー、ひどいもんね」

 山道から、小さなタタラの町が見下ろせた。

昨夜に激闘を繰り広げたその町は、痛ましい姿となっていた。石壁の中で整然と並んでいたはずの建物たちが、虫に食われた葉っぱのように、ところどころ抜けている。退廃的な雰囲気がただよっており、不謹慎だが、背徳的な美しさがあった。

「あれだけ派手にやりゃ、ああもなるわな」

「……あたしのせい、だよね」

 胸元を手でつかみながら、マヒルがつぶやいた。

 いつになくしおらしい彼女の姿に、トヨヒサは思わず目を丸くしてしまう。

「は?」

「あたしが町にきたから、あんな風になっちゃったんだよね」

「……そりゃ、三分の一くらいじゃ」

「三分の一?」

「残りは西軍の残党、あの女、あと俺が暴れた。ほれ、連帯責任ってやつじゃ」

 するとマヒルが意外そうな顔で、こちらを見上げてきた。

「なぐさめてくれてるの?」

「勝手に思ってろ」

「あんたって、素直じゃないわよね。あと、口が悪いわよね。ぶっちゃけ顔も」

 ゴツンッ!

「いたっ。殴るなんて最低よっ」

「悪口を言う、手前が悪い」


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