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第二章 7
「うおっ。なんだ、なんだ?」
「燃えてるぞっ。ありゃ、山田組の遊郭じゃないのか?」
「火消しを呼べっ」
「なんでも竜人と竜狩りの民が斬り合っているらしいぞ」
「奉行所の連中はどうしたよっ。さっさと止めないと、ありゃまずいぞ」
町人たちが、闇の中で赤く浮かび上がる遊郭を指差しながら、騒いでいた。火の見やぐらの鐘が打ち鳴らされ、人々に警告を与えていた。
その騒ぎの中で、歩調を変えずにゆったりと表通りを歩く女が一人いた。
黒髪を束ね上げ、胸元の開いた豪奢な振袖を着込んだ、あでやかな女だ。
黒尽くめの女は、周囲の平屋から頭一つ分飛び出した遊郭の三階部分を見やり、
「あそこぢゃ。感じおる。あの〝声〟と、同じ念ぢゃ。まちごうない」
そう言って、女は遊郭のほうへと歩き出した。