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灰色の道

作者: ゆら。
掲載日:2026/07/20


夕方。


駅前。


たくさんの人。


急ぎ足。


ーーー


女の子がいる。


彼女の名前はつむぎ


昔から。


人の横に伸びる「道」が見える。


細い道。


曲がった道。


遠くまで続く道。


たくさんの道。


でも。


その意味は。


分からなかった。


紬は。


見えていることを。


誰にも話さなかった。


幼い頃。


母に言ったことがある。


「お母さん


おじさんの横に


いっぱい道がある」


母は笑った。


「紬は面白いこと言うね」


(これは皆に見えるものじゃない?)


それ以来。


誰にも言わなくなった。


ーーー


注意深く見たら見える道。


普段はそんなに見ない。


だけど。


あの会社員。


私と同じ推しキーホルダー持ってた。


同じ推しなんだ。


そう思って。


思わず深く見てしまった。


道が見えた。


一本だけ。


光っている。


その横の道。


灰色。


そのほかの道


灰色。


会社員は。


光ってる道を一直線に歩いてる。



紬、首をかしげる。


(ほかの道は行かないのかな)


(それとも…


見えてない?)



そこへ。


荷物を抱えた老人。


ゆっくり歩いてくる。


紬の目に自然と入る。


「え……」


老人の横。


何十本もの道。


全部。


やわらかく光っている。


思わず声が漏れる。


「すごい……」


老人

「どうした?」


慌ててごまかす。


「いえ」


「荷物が多いなって」



老人、笑う。


老人

「公民館の帰りなんだ」


「畑もあるし」


「囲碁もあるし」


「来月は旅行もある」


少し空を見る。


「年を取るとね」


「『やらなきゃ』より」


「『やりたい』が増えるんだ」


老人、歩いていく。


紬、立ち尽くす。


(……道って)


(何なんだろう)


考える。


気づけそうな気がする。


そうしているうちに


もう一人見えた。


主婦、買い物袋。


両手いっぱい。


急ぎ足。


主婦の横。


一本だけ。


光っている。


その奥。


灰色の道が。


幾つも。


静かに伸びている。


(この人も光っているのは一本)


ふと。


その主婦。


ショーウインドの前。


手作りの。


ぬいぐるみ。


足が止まる。


少しだけ。


目が細くなる。


優しく。


笑う。


でも。


すぐ。


その笑顔は消える。


その表情に何か引っかかった。


近づき思わず声をかける。


「かわいいですね」


主婦、少しびっくり。


でも


フッと笑う。


主婦

「……そうね」


一拍。


「懐かしい。」


と小さくつぶやく。


その瞬間。


灰色だった道が。


少しだけ。


光る。


(ん?)


もっと注意深く見る。


灰色の道の前。


黒い文字。


『趣味レベルだから』


『時間がない』


『子どもがいるし』


文字は。


道の入り口から主婦の足に


鎖のように絡みついていた。


(これは何?)


主婦

「昔は……私も毎日のように作ってたの」


思わず聞く。


「今は?」


主婦、少し黙る。


そして、笑う。


主婦

「もう」


「そんな歳じゃないから」


その瞬間。


『そんな歳じゃない』


黒い文字が。


一つ増える。


(また……)


紬、恐る恐る黒い文字に触れる。


消えない。


引っ張っても。


動かない。


紬、小さく息を吸う。


「……誰が」


「そう決めたんですか?」


主婦、止まる。


苦笑い。


「主人が」


止まる。


「……」


「親が」


止まる。


「違う」


長い沈黙。


ショーウインドを見る。


自分の手を見る。


小さく笑う。


主婦

「……私」


パリン。


黒い文字。


ひびが入る。


灰色の道。


少し。


光が強くなる。


もう一度。


ぬいぐるみを見る。


主婦

「また」


「作ってみようかな」


パリン。


黒い文字。


砕け散る。


灰色だった道。


ゆっくり。


光り始める。


紬、息をのむ。


私が壊したんじゃない。


この人が自分で壊した。


この日。


紬は初めて知った。


道を。


隠しているものがある。


人は。


道がないから。


進めないんじゃない。


見えなくなっているだけ。


自分は。


そのきっかけを。


届けることが出来る。



ーーー


今日も紬は町を歩く。


女性

「もう遅いよ」


学生

「無理だよ」


老人

「今さら」


いろんな声。


そう言う人の横には。


今日も。


灰色の道が。


静かに伸びている。


紬は少し笑う。


答えは言わない。


ただ。


問いを一つ。


届ける。


「本当に」


「ないんですか?」


「誰が。」


「無理って決めたの?」



「今日だから。」


「できることもありませんか?」



その瞬間。


風が吹く。


灰色だった道が。


ほんの少しだけ。


光った。


紬は。


何も言わない。


歩き出すのは。


いつだって。


本人だから。



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