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紫陽花の女

作者: 紡里
掲載日:2026/06/07

 雨がしとしと降っている。日本家屋の木の柱はしっとりとした湿り気を纏う。

 こんな日はインクの文字も滲んでしまう気がして、私は原稿用紙を埋める作業を諦めた。


 妻が紫陽花を花器に生けている。太い茎なので力を込めて、花ばさみがバチンと大きな音を立てる。切り捨てられた方の茎が、新聞紙の上にごろりと転がった。


「ねえ、あなた。紫陽花の花言葉をご存じ?」

 妻が涼やかな声で尋ねてくる。

「さぁて……色がとりどりに変わるのだから『移り気』だろうか」

「ふふ。まずそれが出てくるのね。『和気あいあい』という言葉もあるのですよ」

「ああ、数が多く、密集しているからか」

 花言葉というものは、連想ゲームのようなものだろうか。言われたら、多少なりとも「なるほど」と思える必要があると思う。


「青い紫陽花は、『辛抱強い愛情』とか、『冷淡』という意味なんですって」

 妻は思ったように活けられないのか、剣山に差した紫陽花を抜いた。茎からぽたりと雫が垂れる。


「赤い紫陽花は、『元気な女性』で、『強い愛情』らしいの」

 バチン。妻は紫陽花を短くしたいのか。

 バチン。バチン。

 紫陽花の茎がどんどん短くなっていく。あまり短くしたらバランスが悪くなるのではないだろうか?

 私には生け花の素養などない。ホテルのロビーに飾ってある花々も、いいなと感心することもあれば、奇天烈でよくわからないと思うこともある。


 妻は背中を向けたまま、会話を続けた。

「あなたの赤い紫陽花に『早く離婚しろ』と言われたのですけれど」


 どっと汗が噴き出る。

 あの女――余計なことを!


 バチン。どさり。

 今度は、紫陽花の花の方が落ちた。


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― 新着の感想 ―
奥さんは無駄に騒ぎ立てたりせず、夫に針の筵の上で冷や飯を食べさせてる横で、優雅に椅子に座ってお茶を啜る日々を送りそうなイメージを持ちました。 奥さんは青い紫陽花ではなく、蒼い炎が似合いそうですね。 …
投稿お疲れ様です。 妻強し! 花言葉でもって夫を追い詰めるのなんとも風情がありますね。 その後夫婦はどうなったのやら(笑)
有責の証拠提供ありがとうって話ですな
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