【番外編】ピンクの兎は王太子に捕獲される
本作品は、「地味な悪役令嬢は卒業します!せっかくですから着飾ってやりますわ!」の番外編です。
フェリクス様と結婚して一年が過ぎた。
私は今、ディアナとエミリと共にシトレウム商会の会議室にいる。
なぜかって? 皆で新商品を開発しているのよ。
今までいくつかのアイデアをシトレウム商会で商品化してもらったのだけど、なかなかに評判がよい。
今回は『なりきり小動物ルームウェア』を制作中である。
「ロゼ様のアイデアが斬新すぎますっ。今回も大ヒット間違いなしですわ!」
試作品を机に広げたエミリが興奮気味に言う。
『なりきり小動物ルームウェア』はピンクウサギ、黒ネコ、薄茶色リスの三種類を用意した。
「私はウサギを試してみるから、ディアナはネコ、エミリはリスを試着してみて。次の会議で改善点などを話し合いましょう」
「わかったわ。これって本当に手触りがいいわね!」
そうでしょう、そうでしょう!
ディアナの言葉に私は大きく頷いた。
もこもことした肌触りのよい生地は、職人さんと試行錯誤して作った自信作なのだ。
「でもこれを夫の前で着るのよね。絶対に揶揄われそうだわ⋯⋯」
なんとディアナはアルフレッド様と先月結婚したばかり。アルフレッド様の百一回目のプロポーズが遂に実ったのだ。猪突猛進の彼は婚約期間をすっ飛ばして、速攻で結婚に持ち込んだ。
「ふふふ、ディアナ様は新婚さんですものねっ。旦那様の感想もぜひお聞かせください」
エミリが嬉しそうに笑う。
「もう他人事だと思って! そう言うエミリは誰かいい人いないの?」
ディアナが恨めしそうにエミリを眺める。
「そういえば学園時代、イバン様と仲良かったわよね。ああいうタイプが好みだったりする?」
私もエミリの恋愛事情に興味津々につっこむ。
「えー全然好みじゃないですよ。イバンは遠縁で、ただの幼馴染です。それより私はユリウス殿下みたいな母性本能をくすぐるタイプが好きですね」
「ユリウス殿下はああ見えて実はあざといわよー。あれは全部計算づくでやってるわよ」
ディアナが腕を組んで冷静に分析する。
「そのあざとさが可愛いんですよぉ。実はですね、最近、年下の恋人ができたんです」
エミリが嬉しそうに報告する。取引先の男爵家の令息で、彼の方から告白してきたらしい。
「おめでとうエミリ! その彼もあざとくて可愛い感じなの?」
「そうなんです! ユリウス殿下と違って、あざとさが全然隠しきれてない所も可愛いんです~」
それから、女三人でひとしきり恋愛話で盛り上がった。
♢♢♢
それから二週間後。
私達三人は再びシトレウム商会の会議室にいる。
「それでどうだったかしら? 試作品の感想を聞きたいわ」
私が二人に尋ねると、まずエミリが発言した。
「生地の肌触りがすごく良くて、部屋でくつろぐのにぴったりだと思いました。洗ったあと乾きやすい所もいいですね。それに彼も可愛いって言ってくれて! 特にリスのクルンとした尻尾が評判良かったです。僕も着たいって言ってました!」
さすが、あざと可愛い系男子は自分も着たいのね。
ふむふむと頷いた私は、男性用の制作も構想に加える。
「ディアナはどうだった?」
「た、た、大変でしたわ⋯⋯」
ディアナはそれだけ言うと、耳まで真っ赤になって俯いた。
そんなディアナの様子を見て、私はウサギのルームウェアを着た日のことを思い起こした。
***
その日、私は湯あみ後にルームウェアの試作品を着てみた。
自分の考えたデザインが実際に形になるというのは、実に感慨深いわね。
ルームウェアは四点セットになっている。
兎耳のカチューシャ、ベアトップのミニワンピース、羽織物、ニーハイソックスだ。
まずはベアトップのミニワンピース。ずり落ちを防ぐために、生地に伸縮性を持たせてフィット感を高めた。お尻部分にはちゃんと丸い尻尾もついている。
羽織物の着丈はミニワンピースがすっぽり隠れる長さで、袖も長めに作った。羽織物とニーハイソックスも、ワンピースと同じ生地で出来ている。
カチューシャは遊び心で作ってみた。子どもが喜びそうだし、前世の世界の遊園地では意外と大人も喜んでつけていたわ。
ウサギは白ではなくピンク色にした。
フェリクス様と婚約して初めての顔合わせの日に、希少種のピンク色のウサギに遭遇した。それ以来、私の中でウサギといえばピンクなのよね。
フェリクス様が、湯浴みを済ませ夫婦の寝室に入ってきた。
ガウンからのぞく逞しい胸板と、しっとりと濡れた黄金の髪をタオルで拭いている姿が色っぽい。
そんな色気駄々洩れのフェリクス様は、私を見るなり片手を口にあてたまま固まった。
「これね、エミリの所で作った試作品なんだけど、どうかしら。フェリクス?」
ちなみにフェリクス様の強い希望で、夫婦の寝室では敬語・敬称なしを実践している。
兎耳カチューシャもつけた状態で、両手を広げて全身を見せてみる。
「⋯⋯」
フェリクス様は固まったままの状態でこちらを凝視しているが、返事はない。
「ちなみに羽織物の下に着ているワンピースも、同じ生地で出来ているのよ」
商品の説明をすべく羽織物を脱いで、ミニワンピースを見せる。
「⋯⋯!」
しかし反応は返ってこない。
「それでね、ちゃんと尻尾もつけてみたの。なかなか凝ってるでしょう」
クルッと半身をねじり、お尻についている尻尾も見せる。
「⋯⋯!!」
やはり返事はない。
「フェリクス、聞いてる? あの、やっぱり変だったかしら?」
この世界では、さすがに動物の格好は受け入れがたいのかしら。可愛いし流行ると思ったのだけど。
王太子妃がなんてふざけた格好をしているんだ、なんて小言を言われる前に着替えましょう。
私は危機察知能力が高いのよ。怒られる前に撤収撤収。
「着替えてくるわねー」
脱ぎ捨てた羽織物を拾って、そっとその場を離れようとした、次の瞬間。
私はベッドに押し倒されていた。
「可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い」
壊れた機械のように可愛いしか言わないフェリクス様。
一体何のスイッチを入れてしまったのしら。
「兎だロゼが兎だ兎のロゼ可愛いどうしよう」
フェリクス様の語彙力が完全に死んでいる。
猛獣に捕われた兎ってこんな感じなのかしら。
私はフェリクス様の開いた瞳孔を見つめながら、ぼんやりとそんなことを思った。
***
あの夜の事を思い出して遠い目になった私は、ディアナと静かに頷き合った。
ちなみにその後、正式に商品化された『なりきり小動物ルームウェア』は爆発的大ヒットとなった。




