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第九話:お茶を飲ませてから戦う魔法

俺とサーブルは決闘する事になった。


【ブラーサル】

「じゃあ決闘場へ――」


【サーブル】

「時間の無駄だ。ここでやる」


【ブラーサル】

「ええ?みんなの迷惑になるよ」


【ヴァトリナ】

「構わん。時間をかける価値もない」


【ブラーサル】

「ちょっとヴァトリナも!」


サーブルは杖の石突きを俺に向ける。


【サーブル】

「さあ、始めるぞ」


パンッ!


音と同時に俺の腕に衝撃が走る。


【ヴァトリナ】

「痛っ!」


足元に転がったのは――


【ブラーサル】

「これは……ドングリ?」


【サーブル】

「ははっ。温い魔法学園生に対するハンデというやつだ」


【ブラーサル】

「ドングリを集めていたの?わざわざ?」


【ヴェーラ】

「ちょっと可愛いかも」


ヴェーラの目がほんの少しだけ柔らぐ。


【ヴァトリナ】

「ハンデとは有難いな。そのまま慢心して地べたを舐めろ」


俺は水の盾を展開する。


サーブルは杖のグリップ部にドングリを挿入する。


【ヴァトリナ】

「なるほど。風魔法で打ち出しているのか」


筒状の杖。

エアガン、いや吹き矢に近い。


風魔法単体で威力を出すには魔力がかかる。

だが“弾”を使えば最小魔力で攻撃になる。


合理的だ。


【サーブル】

「士官学校首席入学者の圧倒的な実力だ」


ドングリが水の盾に当たる。


カン、カン、と乾いた音。


【ヴァトリナ】

「弱い。これでハンデなど、やはり慢心だな」


俺は一気に距離を詰める。


【サーブル】

「ではハンデは無しにしてやろう」


ドングリが金属光沢を帯びる。


【サーブル】

「≪金属化魔法≫――射撃!」


金属化したドングリが盾に当たる。


だが、やはり通らない。


生徒会長の土弾の方がよほど重かった。


拳が届く距離。


俺はサーブルの頬を殴る。


――硬い。


拳が軋む。


【サーブル】

「痛いだろう?≪金属化魔法≫は俺自身にもかけられる」


【ヴァトリナ】

「だったら動けないだろうが」


【サーブル】

「それも対策済みだ」


靴底の車輪が回転する。


同時に土魔法で地面を整地。


サーブルは滑るように距離を取る。


【サーブル】

「士官学校はな。魔法を“兵器”として扱う」


姿勢を固定。

無駄な動きはない。


【サーブル】

「個性を伸ばすなどという甘い教育ではない」


金属ドングリが次々と飛ぶ。


【ヴァトリナ】

「まるで玩具の人形だな」


【サーブル】

「黙れ。勝てばよいのだ」


俺は水の弾丸を放つ。


弾道を途中で曲げ、靴へ叩き込む。


車輪が砕ける。


【サーブル】

「なにっ」


サーブルは転倒した。


【ヴァトリナ】

「なるほどな」


俺は水の盾を解き、ゆっくり歩く。


【ヴァトリナ】

「兵器としては優秀だ」


【ヴァトリナ】

「だが兵士が減る前提の強さだ」


【サーブル】

「くっ……まだ負けたわけではない!」


金属化を解き、立ち上がる。


【ヴァトリナ】

「いや、もういい」


俺は静かに言う。


【ヴァトリナ】

「士官学校首席入学者とやらの実力は分かった」


一拍。


【ヴァトリナ】

「お前は“使っている”だけだ」


サーブルが睨む。


そして――


【ヴァトリナ】

「俺達は“理解している”」


【ヴァトリナ】

「≪偽聖水レモンティーのワルツ≫」


俺は、サーブルの胃の中にあるレモンティーを揺らした。


【サーブル】

「――っ!?」


体がぶれる。


【ヴェーラ】

「何が起こっているの?」


【ブラーサル】

「さっき飲ませたレモンティーだよ」


【ブラーサル】

「水分は、ヴァトリナの領分だからね」


ヴェーラは自分の胃に手を当て、顔色を変えた。


【ヴェーラ】

「……そんな事が可能なのですか」


……


【ヴァトリナ】

「安心しろ」


【ヴァトリナ】

「死なない程度に調整している」


【サーブル】

「吐き出せば……!」


【ヴァトリナ】

「無理だ」


俺は水を固定する。


【サーブル】

「そ、そんな……」


サーブルの膝が震える。


【ヴァトリナ】

「外から撃つだけでは勝てない」


一歩、近づく。


【ヴァトリナ】

「中を知らなければな」


サーブルは片膝をついた。


【ヴァトリナ】

「これが」


【ヴァトリナ】

「“個性を伸ばす教育”の成果だ」


決闘は、もう終わっていた。


――


中庭には、まだ戦いの余韻が残っていた。


地面には転がったドングリ。

壊れた車輪。

そして、片膝をついた軍事貴族。


サーブルの肩が上下している。


俺はゆっくりと歩み寄った。


【ヴァトリナ】

「さて」


俺は軽く手を叩く。


【ヴァトリナ】

「まずは旧制服の支持を約束して貰おうか」


【ブラーサル】

「ええ?そっちなの?」


【ヴァトリナ】

「当然だろ?これが一番大事だ」


サーブルは悔しそうに顔を歪めたが、やがて小さく息を吐いた。


【サーブル】

「……わかった。支持しよう」


空気が少し緩む。


だが、俺の疑問はまだ残っていた。


確かに、サーブルを王子のコマと疑う根拠は薄い。

俺の名前を知っていた――それだけだ。


それでも、どうにも引っかかる。


俺は腕を組んだ。


【ヴァトリナ】

「じゃあ、次だ」


【ヴァトリナ】

「王子様の事を教えて貰おうか」


サーブルは眉をひそめた。


【サーブル】

「殿下から、この魔法学園で見聞を広めろとだけ書かれた手紙を貰っただけだ」


【サーブル】

「会った事もない」


【ヴァトリナ】

「なら、なんで俺の名前を知っていた?」


【サーブル】

「総書記長だ」


サーブルは視線を逸らした。


【サーブル】

「ヴァトリナという旧制服を広める運動をしている下級貴族には

 関わるな、と言われた」


【ヴァトリナ】

「関わるな、と言われたのにケンカを売ったのか?」


サーブルは顔をしかめる。


【サーブル】

「そうだ」


【サーブル】

「俺では勝てないからと侮辱された」


【サーブル】

「レペ家の恥になる、とな」


なるほど。


サーブルのプライドを利用したわけか。


俺はため息をついた。


【ヴァトリナ】

「それで、いきなりケンカか?」


【ヴァトリナ】

「下調べもせずに」


【サーブル】

「……」


サーブルは黙り込む。


【ヴァトリナ】

「上官にしたくないな」


【サーブル】

「……見聞は広まった」


空気が少しだけ和らいだ。


どうやら意外と前向きな性格らしい。


ブラーサルが肩をすくめる。


【ブラーサル】

「まあまあ、そんな落ち込まなくても良いよ。

 ヴァトリナは、この魔法学園の首席入学者だから」


サーブルが顔を上げた。


【サーブル】

「そうなのか?」


……本当に調べていないんだな。


【ヴァトリナ】

「魔力測定と的当てだけの結果だ。

 たいした意味はないだろ?」


サーブルは真顔でうなずいた。


【サーブル】

「それは意味が無いな」


いい性格してる。


【ヴァトリナ】

「他には、何かないか?」


【サーブル】

「無い」


即答だった。


どうやら本当に、それ以上の情報は与えられていないらしい。


俺は肩をすくめた。


【ヴァトリナ】

「そうか」


【ヴァトリナ】

「なら尋問は終わりだ」


サーブルが目を細める。


【サーブル】

「信じるのか?」


【ヴァトリナ】

「旧制服支持者同士だ」


サーブルが戸惑った顔をする。


【サーブル】

「そ、それだけで……」


【ヴァトリナ】

「ああ、それだけだ」


俺はティーポットを手に取った。


静かな音を立てて、カップにレモンティーを注ぐ。


湯気がゆらりと立ち上る。


【ヴァトリナ】

「そして仲良くしよう」


俺はカップを差し出した。


【ヴァトリナ】

「俺はお茶会に、お前を招く」


これで落ちる。


間違いない。


サーブルの顔色が変わった。


【サーブル】

「ひっ」


一歩。


また一歩。


サーブルは後ずさる。


【サーブル】

「お茶は勘弁していただきたい」


そして――


突然、踵を返して走り出した。


【サーブル】

「レペ家の男は、お茶を味わう暇もないんだー!」


そのまま校舎の向こうへ消えていった。


……


中庭に静寂が戻る。


【ヴァトリナ】

「なぜだ?」


【ブラーサル】

「サイコパスすぎだよ!ヴァトリナ」


【ヴェーラ】

「自分のやった事を自覚してください」


考える。


……。


だが、わからぬ。


【ヴァトリナ】

「俺、何かやっちゃいました?」


【ブラーサル】

「全部だよ!」


ブラーサルは頭を抱えた。


……


昼の風が静かに木々を揺らしていた。

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