第八話:転校生は平民と大貴族
俺が生徒会長をぶっ飛ばしてから11日後。
現在の旧制服の支持率――30%。
あと20%で過半数。
なんとか選挙が見えてきた。
俺は気分が良い。
そんな時だ。
俺のクラスに転校生が来た。
【ヴェーラ】
「ヴェーラです。家名はありません。
平民出身です。よろしくお願いします」
日焼けしたような深い肌色の女性。
肩幅が広く、芯の強さを感じさせる体格。
魔法使いというより、戦士のようだ。
だが姿勢は真っ直ぐで、
視線もぶれない。
教室がざわつく。
どうやら第一王子の推薦らしい。
“平民にも門戸を開く”という改革の象徴。
だが上級貴族の視線は冷たい。
中央は身分に厳格だ。
平民の出自を誇る者など、歓迎されるはずがない。
ここはいっちょ下級貴族の俺が声をかけてみるかな。
ついでに旧制服派にも勧誘しよう。
【ヴァトリナ】
「やあ、ヴェーラ。困ったことはないか?」
【ヴェーラ】
「制服が違いますが、不良生徒さんですか?」
警戒か。
まあそうだよな。
支給された新制服を着ていれば、そう見える。
【ヴァトリナ】
「いや、これは旧制服でな。
今のところ風紀委員も取り締まらない、安全安心で立派な制服だ」
【ヴェーラ】
「そうなのですか?
確かに他にも着ていらっしゃる方がいますね」
【ヴァトリナ】
「事情は説明しよう。お茶会で」
【ヴェーラ】
「お茶会ですか?
作法などは心得ておりませんが」
【ヴァトリナ】
「ああ、いいっていいって。俺も全然だ。
気楽に茶をしばきながら話そうってくらいのやつだ」
【ヴェーラ】
「しばく……?
攻撃訓練でしょうか?」
【ヴァトリナ】
「違う」
彼女は真顔のままだった。
――
第二回ヴァトリナ主催のお茶会。
【ブラーサル】
「はいよ。レモンティー2丁お待ち」
【ヴァトリナ】
「おいおい、いくらお気楽な茶会でも限度があるだろ」
【ブラーサル】
「僕らの領地のお茶会なんてこんなもんだったでしょ?」
【ヴァトリナ】
「まあ、そうだったな」
【ヴェーラ】
「お二人はどちらのご出身ですか?」
【ヴァトリナ】
「海沿いの辺境地だ」
【ブラーサル】
「そして僕らはそこの下級貴族」
【ヴァトリナ】
「平民とあまり変わらん」
【ヴェーラ】
「意外です。中央では貴族は明確に区別されますから」
中央は身分に厳格だ。
一部の平民は財を成し、それ以外は苦しい生活をしている。
【ヴァトリナ】
「まあ安心してくれ。
この学園は中央よりは緩い」
【ブラーサル】
「建前上は、ね」
【ヴァトリナ】
「実力があれば、身分はひっくり返せる。
少なくとも、表向きはな」
【ヴェーラ】
「実力……?」
【ヴァトリナ】
「決闘だ」
【ヴェーラ】
「……決闘で秩序を維持しているのですか?」
彼女は驚かない。
むしろ、分析している。
【ブラーサル】
「まあ、揉めたら決闘ってだけで、そんなに物騒じゃないよ」
【ヴェーラ】
「なるほど。
力の裏付けがあるからこそ、安易な強制が起きにくい……」
そういう理屈なのだろうか。
確かに、身分を理由に俺へ新制服を強要できなかったのは決闘制度のおかげだ。
【ヴァトリナ】
「それと、この学園にはエルフもいる」
【ヴェーラ】
「エルフの方が?」
【ヴァトリナ】
「王国の臣下じゃない。同盟者だ」
【ブラーサル】
「だから税も納めてない」
【ヴァトリナ】
「そこは言うな」
【ヴェーラ】
「……中央ではほとんど見かけません」
【ヴァトリナ】
「だから、この学園では身分なんて気にしなくていい」
俺はレモンティーをすする。
【ヴァトリナ】
「まあ今回は辺境流だ。マナーは気にするな。
話し合いといこう」
ヴェーラは静かに頷いた。
その姿勢は崩れない。
まるで、命令を待つ兵士のように。
――
俺が旧制服の素晴らしさを説いてヴェーラを旧制服派に勧誘していると――
【????】
「おい、なんだ?この酷いお茶会は」
野太い声。
見ると随分とガッチリとした体形の男がいた。
魔法使いらしくない。
【ブラーサル】
「その紋章、レペ家の男だ」
【ヴァトリナ】
「レペ家?なんだそれは」
【ブラーサル】
「軍事を司る大貴族の家だよ。
って、なんで知らないんだよ」
【サーブル】
「ほう。
粗忽者でも知っているようだな。
俺の名はサーブル・ド・レペだ」
【ブラーサル】
「軍事の家の子は、みんな士官学校に行くって話なのに、
なんでこの学園に……」
【サーブル】
「殿下の命令だ。見聞を広める為に
この魔法学園に転校せよ、とな」
士官学校生を?
王子は何を企んでいるんだ。
怪しい。
【ヴァトリナ】
「それは災難だったな。どうだ?アンタも」
俺は新しいカップに茶を入れて差し出す。
サーブルは受け取り少し口に流し込むと
【サーブル】
「なんだ?これは馬のションベンか?」
サーブルはペッと吐き出す。
そしてカップを傾け、
俺の頭へとゆっくり注いでいく。
【ヴァトリナ】
「さすが軍事の家だ。
どうやらレペ家の男は、お茶を味わう暇もないらしい」
【サーブル】
「知っているさ。
お茶とは、このような粗末な物ではない」
空気が張り詰める。
【サーブル】
「こんな物を飲ませた事、詫びて貰おうか」
カップが、指の力でひび割れる。
ガチャン。
ブラーサルの持ってきたカップだった。
【ブラーサル】
「ああ、僕の自信作のカップが……」
【ヴェーラ】
「ブラーサルさん、意外な趣味です」
俺はサーブルの口を見る。
【ヴァトリナ】
「そこまで言うなら」
俺は静かに魔力を巡らせる。
【ヴァトリナ】
「ちゃんと味わってくれよ」
ティーポットの中の液体が、蛇のように空中を泳ぐ。
サーブルは顔を背ける。
【ヴァトリナ】
「無駄だ」
液体は逃げ場を塞ぐように回り込み――
喉へと落ちる。
【サーブル】
「……!?」
ごくり。
【ヴァトリナ】
「どうだ?なかなか美味いだろ」
【サーブル】
「貴様ぁ……!」
サーブルは腰に差していた杖の柄を握る。
【ブラーサル】
「待って待って、こういう時は決闘だよ」
【サーブル】
「決闘?
ああ、そんなシステムだったな
いいだろう。
ヴァトリナ、俺と決闘しろ」
――俺は名乗っていない。
何故、俺の名を知っている?
【ヴァトリナ】
「条件は?」
【サーブル】
「詫びろ。それと――」
視線がヴェーラへ。
【サーブル】
「お前も新制服を着ろ」
【ヴァトリナ】
「俺が勝ったら」
一歩前に出る。
【ヴァトリナ】
「お前は旧制服派に回れ。
それと王子について知っていることを話せ」
【サーブル】
「どうせ俺が勝つ」
【ヴァトリナ】
「違う」
【ヴァトリナ】
「もう、お前は負けている」
【サーブル】
「なめるな! 下級貴族がぁ!」




