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第4話:筋肉の資格

俺は戦場を決闘場に移した。

余計な観衆はいらない。


いるのは、

俺と、

ムスカールと、

そして筋肉化したブラーサル。


筋肉がまぶしい。


【ムスカール】

「さあ、聖水の魔女よ。貴様にも新制服を着てもらうぞ」


ムスカールが腕を鳴らす。

無駄にいい音がした。


【ヴァトリナ】

「その口ぶり、俺が本命だったとでも言うのか?」


【ムスカール】

「当然だ。貴様がトイレに行ったのを確認してから仕掛けた」


【ヴァトリナ】

「なにっ……まさか……」


【ムスカール】

「そう。俺もトイレを済ませている」


ブラーサルが素で言った。


【ブラーサル】

「なんだ、この下品な読み合い」


俺は舌打ちする。


【ヴァトリナ】

「くそ……これでは体内の水を操る必勝法が使えない!」


【ブラーサル】

「そんな勝ち方、倫理的にギリギリだよ!?」


ムスカールが満足げにうなずく。


【ムスカール】

「まったくだな、筋肉の同志よ」


ムスカールはブラーサルの肩をがっしり掴む。


【ムスカール】

「このヴァトリナ・リンドストレームは、

 卑劣な水操作で新制服を否定しているのだ」


無駄に熱い。


【ブラーサル】

「た、たしかに……ちょっとズルいかも……?」


【ヴァトリナ】

「おいおい」


【ブラーサル】

「水でどうこうするのは、ちょっと……こう……」


【ヴァトリナ】

「なんだよ!俺が悪いのか?」


ムスカールがさらに畳みかける。


【ムスカール】

「筋肉は正面から殴る。

 筋肉は隠れない。

 筋肉は流れない」


【ヴァトリナ】

「最後の何だ」


ブラーサルがハッとする。


【ブラーサル】

「違う!僕は君の敵だよね!? 同志扱いしないで!」


【ムスカール】

「なにを言う。美しき筋肉を持つ者は皆、同志だ」


【ブラーサル】

「戻してって言ってるだろ!」


【ムスカール】

「答えはNo。圧倒的にNo」


筋肉が光った。

理由は分からない。


ムスカールは俺に向き直る。


【ムスカール】

「筋肉は常に準備万端だ。

 出るものは出し、戦う」


【ヴァトリナ】

「格言みたいに言うな」


俺は一歩前に出る。


【ヴァトリナ】

「条件追加だ。俺が勝ったらブラーサルを元に戻せ」


【ムスカール】

「いいだろう。貴様が勝てば旧制服支持を認めよう」


【ヴァトリナ】

「お前が勝ったら俺が新制服を着る」


沈黙。


同時に叫ぶ。


【ヴァトリナ&ムスカール】

「レディ――ファイト!!」


こうして、

非常にどうでもいい前提条件のもと、

本気の決闘が始まった。


【ヴァトリナ】

(奴の魔法は筋肉強化。近づかなければ怖くない)


俺は水筒から水を引き出す。


【ヴァトリナ】

「《水の弾丸ウォーター・バレット》!」


ぽしゅっ。


ムスカールは微動だにしない。


【ムスカール】

「ふん。そんな水鉄砲、この筋肉の前では無駄だ」


水が弾かれた。

弾いたのは筋肉だ。

理屈は知らん。


【ヴァトリナ】

「だったら、これならどうだ!」


巨大な水球を生成。

ムスカールの頭を包み込む。


【ムスカール】

「むごむごむご」


【ヴァトリナ】

「はっはっは!これで呼吸できまい!

 筋肉、敗れたり!」


ブラーサルが小声で言う。


【ブラーサル】

「……どっちが悪役?」


その瞬間。


水球が、内側から減り始めた。


一拍。


ムスカールの口から、高圧水流が噴き出す。


【ムスカール】

「ぶはぁっ!」


水のブレス。


【ヴァトリナ】

「なにっ!?」


直撃。

吹き飛ばされる。


【ヴァトリナ】

「くそ……油断した!」


二発目は逸らす。


【ヴァトリナ】

「なんて水圧だ。頬筋でポンプしてやがる」


水球が消える。


ムスカールが息を吐く。


【ムスカール】

「これぞ頬筋の極み。

 顔面もまた、筋肉」


知らん理屈が増えた。


ムスカールが地を蹴る。


速い。


【ムスカール】

「筋肉の――」


間。


【ムスカール】

「ボディブロー」


普通かよ。


腹をガード。


だが衝撃が違う。


狙いは――水筒。


【ヴァトリナ】

「ぐあっ!」


嫌な音。


水筒にヒビが走る。


そして、砕けた。


水が地面に広がる。


戻らない。


【ブラーサル】

「ヴァトリナー!」


足が一歩、前に出かけて止まる。


【ムスカール】

「敵の武器を削ぐのは当然だ。

 まさか卑怯とは言うまいな?」


【ヴァトリナ】

「卑怯だ!」


【ムスカール】

「では正々堂々と格闘をしよう」


ムスカールは拳を構える。


【ムスカール】

「筋肉と筋肉がぶつかり合う、純粋な戦いだ」


俺は拳を握る。


水はない。


【ヴァトリナ】

「くそ……やってやろうじゃないか。

 お前の土俵でな」


殴り合って分かった。

こいつ、素人だ。


読める。


だが一撃が凶器。


そして――


殴った俺の拳が痛い。


硬い?


違う。


硬すぎる。


……不自然だ。


【ヴァトリナ】

「が……はっ!」


一瞬の隙。


ムスカールの拳が直撃。


俺は地面に転がる。


【ムスカール】

「どうだ?筋肉の素晴らしさ!」


俺は口元を拭う。


【ヴァトリナ】

「……ああ。確かにすごいな」


ムスカールが胸を張る。


【ムスカール】

「ついに理解したか!」


【ヴァトリナ】

「美しいだけじゃない。強い」


ムスカールの目が輝く。


【ムスカール】

「そうだろう!そうだろう!」


単純か。


【ヴァトリナ】

「俺もなりたいぜ。お前みたいな筋肉に。

 同志にしてくれよ。ブラーサルみたいに」


一瞬、ムスカールが目を細める。


【ムスカール】

「……貴様、本気か?」


その声音は、疑いというより――期待だ。


魔法学園で、

筋肉を欲しがる魔法使いなどいない。


ましてや、俺は女だ。


それでも。


【ヴァトリナ】

「殴り合って判ったろ?」


俺は立ち上がる。


【ヴァトリナ】

「俺は鍛えてる。

 でも、お前みたいにはなれなかった」


ムスカールの肩がわずかに震える。


【ムスカール】

「……何を言う」


【ヴァトリナ】

「わかるだろ?

 努力しても、届かない壁ってやつ」


沈黙。


ムスカールの拳が、ぎゅっと握られる。


【ムスカール】

「……わかる。

 わかるぞ、ヴァトリナ」


その声は、少しだけ低い。


【ヴァトリナ】

「なら、頼む」


一拍。


思想が揺れた。


そして――


【ムスカール】

「ああ、いいだろう」


俺は上着を脱ぎ、さっと胸に巻く。


【ヴァトリナ】

「痛くするなよ」


【ムスカール】

「安心しろ。無痛筋肉増強だ」


……なんだそれは。


【ムスカール】

「では、《筋肉啓蒙マッスル・エンライトメント》!」


魔力が流れ込む。


筋肉が膨張する。


重さが、自然じゃない。


……違うな。


拳を握る。


重い。


重すぎる。


足裏に違和感が走る。


ムスカールが微笑む。


同志を迎える笑顔――

に俺の拳がめり込む。


【ヴァトリナ】

「これで正々堂々だな?同志」


ムスカールの目が見開く。


【ムスカール】

「な……解除を――」


【ヴァトリナ】

「同志を裏切るのか?」


ムスカールの視線が揺れる。


【ムスカール】

「裏切らない!筋肉は裏切らない!」


【ヴァトリナ】

「ああ、そうだな」


俺は笑う。


【ヴァトリナ】

「筋肉は裏切らない。

 だが――」


一歩踏み込む。


【ヴァトリナ】

「お前は筋肉を裏切っている。

 これは、筋肉じゃない!」


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