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第十一話:希望の星

俺が生徒会長をぶっ飛ばしてから、十五日後。


朝の校庭。


まだ空気の冷たい時間だというのに、校庭では足音がリズムよく響いていた。


先頭を走るのは――サーブルだ。


サーブルが声を張り上げる。


【サーブル】

「左!左!左・右・左!」


【全員】

「左!左!左・右・左!」


【サーブル】

「聞いた話だ!」


【全員】

「聞いた話だ!」


【サーブル】

「魔法学園は!」


【全員】

「戦士を作る!」


【ムスカール】

「筋肉!」


【全員】

「筋肉!」


【サーブル】

「違う!」


ムスカールが少ししょんぼりした。


俺とムスカール、そしてヴェーラは、

サーブルたちに混ざって士官学校式のランニングに参加している。


サーブルが言うには、


「兵であるならば、魔法使いでも基礎体力は必要」


らしい。


そしてムスカールは、


「筋肉を鍛えられるなら何でもやる」


タイプだ。


その結果、

なぜか俺たちまで参加することになった。


ついでに言うと、

ヴェーラも普通に列に混ざって走っている。


そうそう。


ヴェーラは最近、

風紀委員になったらしい。


風紀委員の朝の巡回かと思ったが――

どうやら普通にトレーニングらしい。


士官学校式のランニングなのだが

こんな感じでコールアンドレスポンスをしながら走る。


なんだか前世の記憶にある、

外国映画の軍隊物を思い出す。


サーブルは続ける。


【サーブル】

「士官学校!」


【全員】

「訓練!」


【サーブル】

「戦場では!」


【全員】

「生き残れ!」


【サーブル】

「我らは!」


【全員】

「武器!」


【ヴァトリナ】

「研究対象。特に胃の中」


【サーブル】

「怖い!!」


サーブルの足が止まった。


腹を押さえる。


【サーブル】

「胃の中を思い出させるな!」


あのレモンティー事件以来、

どうも胃が弱くなっているらしい。


俺は軽く肩をすくめた。


【ヴェーラ】

(研究対象……?)


ヴェーラは黙って走りながら俺を見る。


観察するような目だ。


――風紀委員らしい。


やがてランニングは終わった。


全員が足を止める。


荒い呼吸。

額から汗が落ちる。


サーブルがムスカールを見る。


【サーブル】

「ムスカールとやら。このランニングについて来れるとは、なかなかやるではないか」


【ムスカール】

「当然だ。俺は体を鍛える事に全てを賭している」


【サーブル】

「良い心構えだ。軟弱な魔法学園生とは違う」


サーブルは真面目な顔で言った。


【サーブル】

「どうだ。士官学校へ来ないか?」


【ムスカール】

「将来的には、それも考えておこう」


【サーブル】

「何年学生をやるつもりだ」


二人は笑い合う。


良かったな、ムスカール。

仲間が出来たじゃないか。


俺は少しだけ、自分のことのように嬉しくなった。


その時。


【ヴェーラ】

「ヴァトリナさん」


ヴェーラが声をかけてきた。


【ヴェーラ】

「体操服は着るんですね」


俺は自分の服を見る。


今はランニングなので体操服だ。


【ヴァトリナ】

「まあな。制服を汗まみれにするのは嫌だろ」


ヴェーラは首をかしげる。


【ヴェーラ】

「新制服は嫌がるのに、体操服には抵抗しないのですね」


なるほど。


そういう疑問か。


【ヴァトリナ】

「反抗する理由がないからな」


この体操服は普通だ。


少なくとも、

前世で見た女子陸上のユニフォームよりは健全だ。


……アレを俺がどんな目で見ていたかは、

まあ秘密にしておこう。


【ヴェーラ】

「新制服に反抗する理由が、私は分かりません」


……そうか。


もしかして俺が、

学園に不満を持って適当に因縁をつけて暴れていると

思われているのか?


違う。


新制服では――

視線が気になるのだ。


男子高校生の魂を持つ者として、

俺は知っている。


あの視線の意味を。


男子がどんな目で女子を見るのかも。


……特に、どこを見るのかも。


全部、知っている。


だから嫌なのだ。


しかし、旧制服支持派を増やすなら


新制服を悪く言うより

旧制服の良さを語るべきだ。


【ヴァトリナ】

「旧制服が好きだからだ」


【ムスカール】

「筋肉は制服を選ばない」


【ヴァトリナ】

「ムスカールうるさい!女同士の秘密の会話に入って来るな!」


俺はムスカールのケツを蹴り上げた。


【ムスカール】

「筋肉が傷つく!」


ムスカールはしょんぼりしてサーブルの所へ戻っていった。


【ヴェーラ】

「しかし、理由が……それだけなのですか?」


【ヴァトリナ】

「それだけだ。可愛いだろ。いかにも学生って感じで」


ヴェーラは少し考える。


【ヴェーラ】

「軍服由来のデザインだったはずですが」


【ヴァトリナ】

「ぐむむ」


確かに前世の世界でもそうだった。


セーラー服も軍服由来だったはずだし。


【ヴェーラ】

「そんな理由で……政治運動をしているのですか?」


【ヴァトリナ】

「そんなつもりじゃなかったんだがな」


俺は肩をすくめる。


まさか王子様が裏にいるなんて、

普通は想像しないだろ。


【ヴァトリナ】

「自分の大切な物を守ったら、こうなった」


【ヴェーラ】

「…そうだったんですね」


ヴェーラの瞳が揺らぐ。


【ヴァトリナ】

「真面目な奴だな、ヴェーラは」


【ヴェーラ】

「え?」


【ヴァトリナ】

「そうだ」


俺は思いついた。


とても良いことを。


そして――


ヴェーラはそれを

まだ知らない。


【ヴァトリナ】

「真面目な奴だから似合うと思うんだ」


【ヴァトリナ】

「旧制服」


【ヴァトリナ】

「着てみろ」


【ヴェーラ】

「え?」


【ヴァトリナ】

「きっと似合う」


ヴェーラは一瞬固まる。


【ヴァトリナ】

「旧制服の良さは着れば分かる」


【ヴェーラ】

「私が……ですか?」


【ヴァトリナ】

「ああ。絶対似合う」


ヴェーラは少し顔を赤らめた。


【ヴェーラ】

「私はオシャレなど、したことがないので……」


【ヴァトリナ】

「よし。じゃあ放課後にファッションショーだ」


【ヴェーラ】

「えっ?」


【ヴァトリナ】

「決定」


【ヴェーラ】

「ヴァトリナさん!」


【ヴァトリナ】

「ははは!ヴェーラの初オシャレ楽しみだ!」


俺は走って逃げた。


【ヴェーラ】

「ちょっと待ってください!」


校庭に、もう一度足音が響く。


【サーブル】

「おい待て!

 まだ休憩の時間だ!」


【ムスカール】

「筋肉も逃げる!」


【サーブル】

「お前も走るな!休憩だ!」


サーブルの声を置いて

俺たちは走った。


サーブルは腕を組む。


【サーブル】

「なんて体力だ……」


【サーブル】

「……やはりあの二人」


【サーブル】

「士官学校に来るべきだ」


――


学園内の服屋。


魔法学園の敷地内には、学生向けの店がいくつもある。

その中でもここは、制服や礼装を扱う店だ。


店内には鏡が並び、布の香りが漂っていた。


ヴェーラは少し落ち着かない様子で立っている。


手には――旧制服。


【ヴェーラ】

「本当に……着るんですか?」


【ヴァトリナ】

「当たり前だろ」


俺は腕を組む。


【ヴァトリナ】

「旧制服の良さは、着れば分かる」


ヴェーラは少し迷った。


だがやがて、小さく頷く。


【ヴェーラ】

「……わかりました」


そして更衣室のカーテンが閉じた。


――数分後。


カーテンが開く。


ヴェーラが出てきた。


俺は思わず声を上げた。


【ヴァトリナ】

「おお」


旧制服。


清潔なラインのスカート。

きっちりした上着。


飾り気はない。

だが――


【ヴァトリナ】

「似合うじゃないか」


ヴェーラは驚いた顔をした。


【ヴェーラ】

「……そうでしょうか?」


彼女は恐る恐る鏡を見る。


鏡の中には、

真面目な風紀委員ではなく――


きちんとした学生の姿があった。


ヴェーラは少し目を見開く。


【ヴェーラ】

「……私」


【ヴェーラ】

「こんなふうに見えるんですね」


少しだけ嬉しそうだった。


俺は頷く。


【ヴァトリナ】

「だろ?」


【ヴァトリナ】

「だから言ったんだ」


しかし――


ここで俺は思いつく。


【ヴァトリナ】

「ついでに他の服も着てみろ」


【ヴェーラ】

「え?」


【ヴァトリナ】

「せっかくだ。試着だ。試着」


店員が嬉しそうに服を運んできた。


豪華なドレス。

レース。

刺繍。


ヴェーラは戸惑いながらも着替える。


――そして。


鏡の前に立った。


豪華な服。


柔らかい布。


丁寧な縫製。


ヴェーラは鏡を見つめる。


しばらく黙っていた。


【ヴァトリナ】

「どうだ?」


【ヴァトリナ】

「その服、めちゃくちゃ似合ってるぞ」


ヴェーラは鏡の前で顔を赤くした。


【ヴェーラ】

「これが私……」


【店員】

「お客様、お気に入りましたのでしたら、どうでしょうか?」


【店員】

「お値段はこちらです」


ヴェーラは値札を見る。


【ヴェーラ】

「上等な布が……こんなに」


ヴェーラはゆっくり言う。


【ヴェーラ】

「贅沢に使われている」


俺は少し首をかしげた。


【ヴァトリナ】

「どうした?」


ヴェーラは答えない。


代わりに――


布を触った。


指先で。


静かに。


【ヴェーラ】

「……私は、何をやっている」


その声は小さかった。


【ヴェーラ】

「中央の平民には」


【ヴェーラ】

「布は貴重なんです」


ヴェーラの目が鏡の中の自分を見る。


【ヴェーラ】

「冬を越すための、粗末な布」


【ヴェーラ】

「それを何年も使う」


彼女はドレスを握った。


【ヴェーラ】

「それなのに」


【ヴェーラ】

「こんな上等な布を」


【ヴェーラ】

「貴族は」


【ヴェーラ】

「平民の粗末な布と」


【ヴェーラ】

「同じ値段で買える」


しばらく沈黙が流れた。


ヴェーラは鏡を見たまま言う。


【ヴェーラ】

「……なるほど」


【ヴェーラ】

「……分かりました」


【ヴァトリナ】

「何が?」


【ヴェーラ】

「この国の歪みが」


【ヴェーラ】

「よく分かりました」


彼女はゆっくり振り返る。


目はまっすぐだった。


【ヴェーラ】

「私は」


【ヴェーラ】

「平民の希望の星になる」


俺は瞬きをした。


【ヴァトリナ】

「急に重い話になったな」


【ヴェーラ】

「重くはありません。

 あなたと同じ」


【ヴェーラ】

「大切な者を守りたいだけ」


ヴェーラは敬礼した。


【ヴェーラ】

「ヴァトリナ・リンドストレーム」


【ヴェーラ】

「あなたに決闘を申し込みます」


店の中が静まり返った。


【ヴェーラ】

「私は」


【ヴェーラ】

「あなたを倒し」


【ヴェーラ】

「平民の」


【ヴェーラ】

「希望の星になる」


一呼吸。


【ヴェーラ】

「そして」


【ヴェーラ】

「殿下の」


【ヴェーラ】

「希望の星になる!」


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