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第十話:カエルを王子様に戻す者は

俺が生徒会長をぶっ飛ばしてから、十三日後。


魔法学園の中庭では、今日も騒ぎが起きていた。


ムスカールは転校生と戦っていた。


【ムスカール】

「何故だ?このような乱暴狼藉。

 筋肉の同志であろう」



【転校生】

「筋肉があるからって仲間扱いすんな」


パンッ。


乾いた音が響く。


転校生の杖から金属の弾丸が打ち出された。


【ムスカール】

「むうん。≪筋肉マッスルシールド≫」


弾丸はムスカールの腹に当たった。


【転校生】

「普通に当たってんじゃねーか」


パンッ。


もう一発。


【ムスカール】

「銃撃でツッコミするな」


【転校生】

「ツッコミ入れたくなるだろ!」


ムスカールは胸を張った。


【ムスカール】

「筋肉はすべてを解決する」


パンッ。


【転校生】

「全然解決してない!」


弾丸はムスカールの肩に当たった。


ムスカールは真顔でうなずく。


【ムスカール】

「筋肉は……少し裏切る」


戦いは続いた。


――六分後。


転校生は肩で息をしていた。


弾丸の装填をしようとした瞬間――


パチン。


淡い光の球が、両手首に触れた。


【転校生】

「……なんだ?」


【転校生】

「手が……動かない」


静かな声が後ろから聞こえた。


【イーシア】

「血って凍るのよ」


転校生が振り返る。


エルフの少女が、杖を軽く振った。


【転校生】

「なん……だと」


【イーシア】

「アナタの血液を少しだけ凍らせたの」


転校生の腕が持ち上がる。


ゆっくりと。


無理やり。


Y字の形に。


【イーシア】

「そして私は氷を操れる」


【転校生】

「や、やめろ」


【イーシア】

「ダーメ」


彼女は笑った。


【イーシア】

「反省しなさい」


彼女の杖が空をなぞる。


【イーシア】

「≪魔氷彫像アイス・スターチュ≫」


大気中の水分が一瞬で凍った。


氷柱が地面から伸びる。


そこに――


転校生が、Y字に吊るされた。


氷の彫刻。


芸術作品の完成である。


【イーシア】

「まったく」


彼女は呆れたようにムスカールを見た。


【イーシア】

「なに遊んでるのよ、ムスカール」


【ムスカール】

「いや、彼は強くて……」


【イーシア】

「アナタも風紀四天王でしょ」


一拍。


【イーシア】

「最弱四天王」


さらに一拍。


【イーシア】

「ざーこ。ざーこ」


ムスカールは遠い目をした。


【ムスカール】

「筋肉……」


【ムスカール】

「筋肉をもっと鍛えれば……」


【イーシア】

「魔法を鍛えなさいよ」


【ムスカール】

「そうだな」


ムスカールは真顔でうなずいた。


【ムスカール】

「魔法も筋肉……」


【イーシア】

「もう、話にならないわ」


イーシアはため息をついた。


【イーシア】

「で、この人は何をしたの?」


ムスカールは氷像を見上げる。


【ムスカール】

「食堂の列に割り込みして、他の生徒とモメていた」


イーシアは転校生を見た。


【イーシア】

「アナタ。

 そんなつまらない事でモメてたの?」


転校生は鼻で笑った。


【転校生】

「……俺は上級貴族だ」


【転校生】

「下級貴族は譲るべきだ」


イーシアは肩をすくめた。


【イーシア】

「王国の序列を

 エルフの私に説かれても困るわね」


ムスカールはうなずく。


【ムスカール】

「この魔法学園は平等だ」


【転校生】

「何を言う」


【転校生】

「上級貴族と下級貴族の間には

 超えられない壁がある」


ムスカールは腕を組んだ。


【ムスカール】

「殿下の決めた事に逆らうのか?」


転校生の表情が止まる。


【転校生】

「……」


【転校生】

「殿下が決めたのか?」


【ムスカール】

「そうだ」


しばらく沈黙が流れた。


【転校生】

「……わかった」


【転校生】

「従う」


イーシアは呆れたように言った。


【イーシア】

「ちゃんと校則、頭に入れておきなさい。

 作った人の名前も載ってるんだから」


――


生徒会室。


生徒会室のドアの前に立っていたのは――

ヴェーラだった。


廊下には人の気配がない。

生徒会長が不在になってから、この部屋はどこか静まり返っていた。


ヴェーラは一度、制服の襟を正す。


そしてノックした。


コンコン。


【総書記長】

「どうぞ」


扉が開く。


ヴェーラは一歩、中へ入った。


【ヴェーラ】

「失礼します」


生徒会室の奥。


巨大な机の向こうに――


巨大なカエルが鎮座していた。


深い緑色の皮膚。

不自然なほど大きな体。

そして、人の言葉を理解する知性を感じさせる瞳。


総書記長はそのカエルに向かって恭しく頭を下げた。


【総書記長】

「殿下。ヴェーラさんがいらっしゃいました」


カエルの喉が膨らむ。


ぐるるるる。


そして――


声が響いた。


【王子】

「そうか」


【王子】

「では総書記長。

 そなたは席を外せ」


【総書記長】

「はっ」


総書記長は深く一礼すると、生徒会室を出た。


扉が閉まる。


部屋には、ヴェーラと――

巨大なカエルだけが残った。


【王子】

「どうだ」


【王子】

「そなたが見た

 ヴァトリナ・リンドストレームは」


ヴェーラは背筋を伸ばした。


【ヴェーラ】

「強い戦略家です」


【ヴェーラ】

「首席入学者サーブル・ド・レペは

 戦う前から負けていました」


カエルの目がゆっくり細くなる。


【王子】

「サーブルか」


【王子】

「あの程度の男が首席入学とは」


【王子】

「士官学校も腐ったものだな」


ヴェーラは何も言わない。


沈黙。


【王子】

「本来なら」


【王子】

「そなたが首席であるべきだった」


ヴェーラは小さく首を振った。


【ヴェーラ】

「そのような事は……」


【ヴェーラ】

「私は平民です」


【ヴェーラ】

「殿下に士官学校へ入れていただいただけで

 充分でございます」


カエルの喉が、ゆっくり動く。


【王子】

「そう言うな」


【王子】

「そなたは余の希望の星なのだ」


ヴェーラは目を瞬かせた。


【ヴェーラ】

「……私が、希望の星?」


【王子】

「余だけではない」


【王子】

「貧しい平民に生まれた者すべての

 希望の星だ」


ヴェーラは黙る。


王子の声は静かだった。


しかし、その言葉には妙な熱があった。


【王子】

「この国は」


【王子】

「やがてすべて余のものになる」


【王子】

「夜空すら余のものだ」


カエルの目が、暗く光る。


【王子】

「その空に」


【王子】

「レペ家のようなクズ星はいらぬ」


【王子】

「そなたのような美しく輝く星の

 邪魔になるなら、なおさらだ」


ヴェーラは言葉を失った。


【王子】

「星とは」


【王子】

「上から見下ろすものではない」


【王子】

「下から見上げるものだ」


カエルの目が瞬いた。


【王子】

「そなたの光で」


【王子】

「余を照らせ」


ヴェーラは戸惑う。


【ヴェーラ】

「しかし……」


【ヴェーラ】

「そのような大役は……」


【王子】

「そのための道は作った」


カエルの喉が


ぐるるるる


と低く鳴る。


【王子】

「ヴァトリナ・リンドストレームを倒せ」


【王子】

「無能なレペ家の男を倒した女」


【王子】

「それをそなたが倒し

 輝きを証明するのだ」


ヴェーラの胸の奥がわずかに震えた。


恐怖か。

それとも誇りか。


自分でも分からない。


そして――


【ヴェーラ】

「……はっ」


士官学校生らしく敬礼した。


カエルの口がゆっくり歪む。


【王子】

「優秀で」


【王子】

「規律を理解し」


【王子】

「命令に従う」


【王子】

「旧制服派の空気も一掃できる」


【王子】

「唯一の者」


カエルの舌が


ぴろん


と伸びた。


【王子】

「そして」


【王子】

「余をカエルの姿から

 王子へ戻す者よ」


カエルの口が


にやり


と歪んだ。


【王子】

「期待している」


――


廊下。


生徒会室の外。


【総書記長】

(あの王子は……)


総書記長は壁にもたれながら目を閉じていた。


魔法による盗聴。


室内の会話はすべて聞こえていた。


生徒会長がいた頃には出来なかった事だ。


生徒会長は強かった。


学園最強。


あの女がいたなら、このような小細工は通じない。


だが今は違う。


【総書記長】

(まずいな……)


【総書記長】

(あの男は王ではない)


【総書記長】

(怪物だ)


総書記長はゆっくり目を開く。


【総書記長】

(あの王子を廃嫡せねば)


【総書記長】

(国が崩れる)


総書記長は静かに歩き出した。


王子を廃嫡するために。


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