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第八話 明かされる悲しき過去……♡

 目を開けていられないほどの、莫大な瘴気の奔流がアタシ達の方まで押し寄せてくる。


「――あかりッ!!私から絶対に離れないで……!!」


 沙雪がアタシを抱き寄せながら、強く叫ぶ。


 非常事態にも関わらず、そんな沙雪に頼もしさを感じるのと同時に……アタシはどうしようもない不安を感じてもいた。


 確かに、何が起きているか分からない以上は、こうして耐え忍ぶ方が賢いに決まっている。


 そのはずなのに――気が付くと、アタシはベッドから立ち上がっていた。


「ちょっと……!?言ったそばから何してるの!」


 そんな沙雪に向けて、アタシは「わかってる!」と言いながら手を差し出す。


「でも、このままじっとしてても何も変わらない気がする!!――だから、一緒に行こうよ沙雪!!そしたらアタシは、どんなところでも勇気を出して踏み出せるはずだから!!」


 沙雪は一瞬ポカン、とした表情をしていたが、すぐに呆れたようなそぶりをしつつも微笑とともにアタシの手を取ってくれた。


「……仕方ない、か。あかりだけにしちゃうと、途中で怖くて立ち竦んじゃうか変にヤケクソになるかのどっちかだしね」


「もう!本当に素直じゃないなぁ!!そんなんだから色々溜め込んで暴発したりするんだよ?――こういう時はただ一言、『一緒にいよう』で十分なの!!」


 そんな風に笑い合いながら、手をつないだアタシ達は色餓鬼の方めがけて一歩を踏み出す――!!





 色餓鬼の方に進むごとに、瘴気は色濃く勢いを増していく。


 それと同時に、視覚とは別に知らない映像が脳内に鮮明に流れ込んでくる。



 ――最初に感じたのは留守の間に面倒を見てくれる親切な人妻への軽いあこがれ。求めたのは共働きで忙しい両親との寂しさを埋めてくれる確かな抱擁。



 色餓鬼となった少年の独白とともに、彼と人妻の赤裸々な記憶が再現されていく。


 ……縁側で一緒に食べたスイカの味……車から降ろした米袋を痩せ我慢しながら抱えていたときに応援してくれたおばさんの笑顔……普段の豪快な態度とは裏腹に、特技のピアノを披露されたときの衝撃……「クラスで気になる子とかいないの~?」と聞かれた時に、上手く答えられずにどもりながら麦茶をごぼごぼするしかなかった昼下がり……ドギマギしつつも一緒に入ったお風呂タイム♡……帰宅した旦那さんを出迎えながら軽く口づけする姿を見たあとのモヤモヤ感……学校帰りに購入したそこそこな感じのラブコメ漫画を見つけても深堀りせずに受け入れてくれつつも、その優しさに無性に屈辱を感じて不貞腐れながら食べていた夕食……自分でもわかるくらいに明らか子供向けホラーなのに、本気でビビるおばさんを笑って叱られた夜……頭をわしゃわしゃされている内に、急にこちらをじっと見つめる大人びた眼差し……ブチュッ♡……ぬちゅっ……初めてのShippori and the City♡……蒸し暑さの中、仰向けになりながら手をつなぎ合うひととき……見惚れるくらいに綺麗な浴衣姿……格好いいところを見せたかったけど、二人とも全然捕まえられなかった縁日の金魚すくい……おばさん!口の中のタコ焼きを見せつけながら薄目でちろちろ舌を左右に動かさないでよ!?……テーブルで夕食を食べているおじさんを尻目に、ソファで二人一緒にテレビを見ているフリをしながら過ごす内緒の意味深こしょこしょタイム……花火そっちのけの二人を克明に映し出す影とかき消されていく軽快な音……





 ――……そして、差し出される陽性反応が表記された検査薬。





 重大さを受け止めきれずに固まったままの少年に、寂しそうに苦笑しながら「旦那の子として育てていくから、安心してね……♡」と告げて去っていくおばさん。


 ……鬼にも、そんな悲しい過去があったなんて。


 そんな記憶の終わりとともに、気がつくとアタシ達は色餓鬼の近くにまでたどり着いていた。


 かつての少年としての原型をとどめながらも、色餓鬼が悲しそうに呟く。


「僕二モット、オバサンモ赤チャンモ養エルクライ強カッタラ、托卵ナンカセズニ今モ愛スル人ト一緒二イラレタンダ……」


「それはそれとして、やっぱ最低じゃん……」


「エロガキ……」


 そんなアタシ達の反応など聞こえていないかのように手の中の大量のメダルを見つめながら色餓鬼は続ける。


「ソノタメニコンナ姿二ナッタノニ……コレデ渇キヲ癒セルト思ッテイタノニ!!ナンデ今サラ、コンナモノガ転ガリ込ンデ来ル!?アノ時ニコレダケノ金ガアッタノナラ、俺ハ鬼二ナンテ成ラナカッタッ!!」


 確かにこれだけのメダルを換金すれば、一生は無理でも養育費くらいには出来たかもしれない。


 ……無論、少年だった色餓鬼がおばさんと結ばれることは無理だったかもしれないけど、”それでも”と感じさせてしまうかつては持っていなかった”金”という具体的な力の具現を前に、失われたはずの人間としての心が残酷な形として呼び起こされてしまったみたいだった。


 刹那、色餓鬼の身体からこれまで以上の極限の瘴気の暴風が吹き荒れていく――!!



「モウイイ!!コンナ出来損ナイノ感情ゴト何モカモブチ壊スッ!!イラナイ、イラナイ!!ゲギャ、ゲギャギャギャギャギャ!!何モ感ナクナルマデ、見エナクナッテ全部全部白ク真ッ黒二ナルマデ!オンナハ全部俺ノ好キ放題、片ッ端カラ滅茶苦茶二シテヤルッッ!!!!」



 身体を切り裂くようなドス黒い力がアタシ達の身に襲い掛かる。

 

「あっ、ぐっ……!!さゆ、き……」


「あか、り……大丈、夫だから……!!」


 嘘だ。


 こんな状況で大丈夫なわけがない。


 それでも隣にいたはずの沙雪の方に手を伸ばそうとするが、そこには誰もおらず空を切るのみ。


 耳に聞こえてくるのは砂嵐のようなノイズと色餓鬼の不快な叫び。


 視界も既に濁ったように見えなくなってきた。


 それでも前方にいるはずの色餓鬼に立ち向かおうと何歩か足を進める。


 ……一歩、二歩、三歩。


 打つ手なんて何もない。


 それでも、こんなところで何も出来ないまま終わるなんて悔しいじゃん。


 そんな風に自分を奮い立たせようと考えすぎたのが良くなかったのかもしれない。


 視界不良の中で無理して進んだ結果、アタシはバランスを崩して思わず後ろから倒れ込んでしまった。


「~~~~~ッ!?」


 頭を打って痛いのに、声を出す余裕さえない。


 何より、すぐに起き上がるべきなのにそれすら出来ないくらいにアタシの身体も限界のようだった。


 悔しさで思わず涙が滲んでくるのとは対照的に、色餓鬼の勝ち誇ったかのような耳障りな哄笑がアタシの方へと近づいてくる……。

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― 新着の感想 ―
色餓鬼の過去www。 まぁ、少年にも非がありますけどね。おばさんの方に非がありますよね。これ……。 いや、でも、なんだかんだで、「それはそれとして、やっぱ最低じゃん……」のセリフに集約されますよね。 …
>「それはそれとして、やっぱ最低じゃん……」 wwwww
これ、社会的責任の観点からおばさんの過失が大きいのは明らかなんですが、それでもどうしても思っちゃうのは、それっぽい掘り下げ挟んでいるけどそれはきっかけに過ぎず、人妻とか熟女趣味とかそういった性癖も関係…
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