第七話 百合の狭間に連なる狂喜
粉塵を撒き散らしながら、爛爛と瞳を光らせた色餓鬼が室内に出現する。
……扉がバリケードごと壊されたのは無理もないことだろう。
なんせ沙雪が全身で押さえつけてくれていたから何とか持ちこたえていた状態だったのに、そこから二人でキスとかしてたらそりゃこうなる。
むしろ気づかないくらいお互い夢中だった中で、ここまで耐久してくれたことが奇跡と言っていいかもしんない。
そんなことを考えるくらいに、今のアタシは完全に追い込まれていた。
ベッドの上で逃げる先もなく、迎撃するための手段も持ち合わせていないことを見透かしたかのように、口が裂けんばかりに外卑た笑みを浮かべた色餓鬼がこちらを見つめる。
「ゲギャギャ!――オンナ、フタリ!オレ、アイダ二ハサマッテ、ダブルブチュッ♡スルッ!!サセロッ!」
あまりにも悍ましい発言を受けて、思わずアタシと沙雪がベッドの上で互いの身を抱き寄せ合う。
それを好機と見做した色餓鬼が、よだれを垂らしながら今にもアタシ達に飛び掛かろうとしてきた――そのときだった。
――トゥットゥルトゥットゥー、トゥットゥルトゥットゥー!トゥットゥルトゥットゥー、トゥットゥルトゥットゥー!!
あまりにも場違いなほどに軽快なリズムが大音量で流れ出したかと思うと、部屋全体を照らすほどの目障りな光が派手に展開し始めていく。
これらの発生源は言うまでもなく――アタシをギャンブルで有り金全部巻き上げた忌まわしい怪異オブジェクト:ネオン・キャタピライドだ!
先ほどと同じ部屋の片隅にいたものの、画面をこちらに向けながら『Fever!!』の文字をドデカく表示している。
そんなキャタピライドからは、今まで観たことないくらいに勢いよくメダルがジャラララッ!!と放出されていた。
その様子を見ながら、沙雪が困惑した表情で呟く。
「どういうこと……?私達はスロットなんてしてないよね?」
「う、うん……最後に残ったなけなしのメダルは投入したけど、沙雪に引き離されたから出来なかったはずだし……」
そんなやり取りをしている間にも、キャタピライドは床をガリゴリ削りながらも室内を縦横無尽に駆け回り勢いよくメダルを放出していく――!!
『トゥットゥルトゥットゥー、トゥットゥルトゥットゥー!トゥットゥルトゥットゥー、トゥットゥルトゥットゥー!!』
この突然の誤作動の原因は分からない。
ただ、なんとなく――人に言ったらあまりにも馬鹿げた思いつきと鼻で笑われるかもしれないけど。
そのときのアタシにはネオン・キャタピライドの姿が、何かエッチな気分にでもなって興奮してはしゃいでいるように思えてならなかった。
「ゲギャ……ウルサイゾ、キサマッ!!」
耳を塞いでいた色餓鬼が耐え切れないと言わんばかりにキャタピライドに飛び掛かろうとするが、乱雑に床にばら撒かれたメダルのせいで転んで盛大に頭をぶつける。
起き上がろうとしている間にも、下皿から勢いよく排出されている分だけでなくキャタピライドがマジックアームで掴んだたくさんのメダルが、散弾銃のように色餓鬼に降り注いでいく――!!
「ゲギャギャ!!……節分ノ豆ナライザ知ラズ、コンナモノヲドレダケブツケラレタトコロデ、オレ二は効カヌッ!!」
えっ、本当に鬼だから豆ぶつけるだけで良かったの!?
……じゃあ、御大層な結界だの呪文唱えながらも瞬殺されてた憐徒さんってなんだったのさ!!
とはいえ、色餓鬼の言う通り実際ヤツはピンピンしているし、一通りぶつけて興味を失くしたのかキャタピライドは再び床を削って移動しながらコインをばら撒いている。
いや、状況は地味に悪化?しているようだ。
『このままヤツが移動し続けたら、床が抜けるかもしれない』という懸念はあったけど、それ以上にキャタピライドのコイン排出量が減り始め、動きも演出も緩慢になっていったかと思うと……ついにはそのまま、動きを停止してしまった。
「自分だけ勝手にスッキリしてんじゃないよ」
「あかり……!!こんな時になに言ってんの……」
いや、だって見た目が機械なだけでコイツのやってることってそういうことでしょ?
これが映画の中とかなら全然いいけど、自分の目の前で自室をこんだけ荒らされたらそんくらい言いたくもなるでしょ?
とはいえ、これで完全に打つ手がなくなった。
今度こそ絶体絶命かと思われたが……どうにも様子がおかしい。
見れば、色餓鬼が自分にぶつけられたメダルを何枚か両手にすくいながら、それを見てプルプルと身体を震わせていた。
本当は瘦せ我慢をしていただけで、豆じゃなくてもぶつけていたら通用するんだろうか?
いや、でも身体には傷ひとつついてないようだし……何より、あの表情は人じゃない悪鬼とはいえ、ダメージを負って苦しんでいるというよりも、何かに気づいて呆然としているように見えた。
どう対処すればいいのか分からずに、無言でアタシと沙雪が顔を見合わせる中、色餓鬼がポツリと呟く。
「――何故、今更二ナッテ、コンナモノガ……!!」
果たして、その言葉の裏に潜む真意とは何だったのか。
そんな疑問を挟む間もなく、色餓鬼の全身が突如ひび割れていく。
パキッ……パキキッ!!
軽い音とともに外殻が剥がれ落ちるや否や、色餓鬼の内部からドス黒い瘴気が発生し、室内を覆い尽くす勢いで充満していく――!!




