第六話 ほんとうに夢中になれること……♡
――沙雪からの突然のキス。
ようやく離れてぷはぁ……!!と息をするのと同時に、ツツ……と銀の糸がアタシ達二人の間を落ちていく。
「――って汚ッ!!コレ、体勢的に一方的にアタシのところに来るだけじゃん!?」
「うっさい、バカ!!――私が一生懸命押さえつけている間も、ずっとアホ面でスロットし続けて有り金全部溶かすあかりが悪いんじゃないッ!!」
「……ッ!!全部羅列されたら確かに間違いなくアタシが悪いけど、それといきなりキスするのは関係ないでしょ!?」
「うっさいッ!!」
再びそう叫ぶのと同時に、口元のよだれを洗い流すかのように大粒の涙が降ってきた。
「あかりはいつだってそう!!……なんでも適当にちゃらんぼらんなように見えて、変なところで他人のことを考えられるくせに、肝心な私の気持ちにはちっとも気づいてくれないじゃない!!なんなのって言いたいのはこっちの方だよ!!鈍感なら鈍感で何にもわからないままでいてよ!変に期待持たせないで!こっちを振り回さないでよ!!」
「さゆ、き……」
「スロットなんてどうでもいい!!――ギャンブルなんかよりも、私に夢中になってよッ!!」
私が何か言うよりも早く、再び沙雪が私の唇を……さっきよりも荒々しく塞いでいく。
……知らなかった。
まさか、沙雪がこんな風に思っていたなんて――。
……でも、本当にそうかな。
アタシは普段陽気に振舞っているけど、実際はなんだかんだ臆病だし結構周囲の人のこととか気になって心境をアレコレ考えちゃったりもする。
さっきのパスタ食べていた色餓鬼の時だってそんな場合じゃないのに、アイツが人間時代に付き合っていた人妻のこととか考えてたくらいだもん。
……そんなアタシが、本当に沙雪の気持ちにだけ気づかないことなんてあるのかな?
――本当は気づかないように、自分の想いに蓋をしていただけじゃないのかな?
こんな形になるまで無理させてゴメンね……沙雪。
なんて言って謝ったらいいのかわからない。
でも、アタシは根っこが臆病だし、そのくせすぐに自棄を起こす馬鹿だって自分で自分のことがよく分かっているから、気づいていても沙雪の気持ちに向き合う覚悟がなかったんだと思う。
アタシは――。
……違う。
そんなアタシでも、単なる自棄なんかじゃなくて自分の意思で動けたこともあったんだ。
――公園でドリルを持ったおじいさんが怒鳴り込んできたときに、怖じ気かずに対峙出来たのも。
――最初に色餓鬼に遭遇したときに、手を取って逃げ出せたのも。
――……恵方巻を食べ合いっこしようなんて、馬鹿げたことを提案する気になったのも。
……全部、沙雪が隣にいてくれたからだった。
沙雪が一緒だったから、どんなにちっぽけでつまらない自分でも頑張ろうって思えたんだ――!!
なんでこんな簡単な事実に、今さら気づくんだろう。
アタシは本当に大バカ野郎だ。
でも、それならアタシの気持ちはきっと――。
「……あかり、大丈夫?」
見れば、さっきとは裏腹に心配そうにこちらをのぞき込む沙雪の顔があった。
あんなに怒りまくってたくせに、なんて表情してんだよ。
せっかくの美人さんが台無しでしょ。
アタシはそんな彼女を安堵させるように口を開く。
「……やりたいように出来て少しはスッキリしましたか?発情鬼さん」
言ってから変に嫌味とか拒絶のように思われないかと内心で不安になる。
自分で上手く笑えていたかも分からないけど、沙雪も気持ちを察してくれたのか安堵したようにこちらへ微笑みながら語りかけてくる。
「……キス、しちゃったね」
「……今さら。二回目だっつーの」
そう軽口を叩きながらも、今度はアタシが沙雪に向かって自分からキスをする。
……アタシは本当はすっごく臆病なヤツだから、この想いを言葉になんてしてたら絶対どこかで”逃げ”が入る。
だけど沙雪がいてくれるなら――アタシは勇気を持って行動することが出来るッ!!
「……~~~ッ!!」
沙雪が驚いた表情で目を見開くが、気にしない。
フフン、これで少しはアタシの気持ちも味わえむっつりスケベ。
こっちはさっきと違って思考がクリアだから、キス越しにさっき二人で食べた恵方巻の残滓を堪能する余裕があるほどです。
ざまーみろ。
……それにしても今日は、沙雪のいろんな”初めて”の表情を目にしてばかりだ。
そんな風に考えながら、気持ちを通わせ合っていた……そのとき。
「ゲギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!」
盛大な衝撃と轟音とともに、限界を迎えたドアが前に積み重ねられた即席バリケードごと吹き飛ばされたかと思うと、絶叫を上げた色餓鬼が勢いよく部屋の中へと飛び込んで来た――!!




