第四話 迎撃開始!!
――それは、ネオン・キャタピライドを外に放置してから、アタシ達四人が家の中に入ってから30分くらいのことだった。
突如、玄関がドン、ドンッ!と強く叩かれ始めるのと同時に、あの耳障りな「ゲギャギャ!」という哄笑が聞こえてくる。
「ついに、アイツが来たんだ……!!」
沙雪の言葉にアタシは頷きながら、玄関先で防御結界とか言うのを構築していた憐徒さんに声をかける。
「憐徒さん!!どう、イケそう!?」
「――ダメだ!!全く準備出来てない!」
「はぁ!?そこそこの時間があったのに、少しも出来てないの!?」
「し、仕方ないじゃないか!……よくよく思い返してみたら、女性の家に招待されたことなんてなかったから、ドギマギしてまったく集中出来なかったんだ!!」
さ、最悪……ッ!!
なんも仕方なくねぇわ!!とアタシが怒鳴ろうとした矢先、勢いよくドアが蹴破られる――!!
「ゲギャギャ……♡」
外にいたのはもちろん、外卑た笑みを浮かべた色餓鬼だった。
アタシと沙雪が硬直して身を寄せ合う中、憐徒のオッサンが颯爽と色餓鬼の前に立ちはだかる。
「――二人は先に行きなさい。オカルトハンターである前に一人の大人として、人妻とた~……っくさん♡Shippori and the Cityな行為をして幸せ気分に浸っておきながら、未練がましく鬼になり果てるようなガキを許すわけにはいかないからな……!!」
「オッサン……」
「憐徒さん……」
『それってオカルトハンターとか大人としての使命感というよりも、単なる僻みじゃないの?』という疑問が一瞬脳裏をよぎったけど、それを言葉にすることを許さないほどのドス黒い怨念が彼から迸っているかのようだった。
沙雪がオッサンに頭を下げて礼をすると、アタシの手を取って駆けだす。
「行こう、あかり……!!」
「う、うん……!!」
背後では憐徒のオッサンが
「――”藤っ子、良い子、元気な子。万象の理のもとに、エッチなお姉さんに惹かれし者の御魂に、でっかい恐竜を愛していたかつての記憶を呼び起こしたま”……おわッ!?や、やめ……ッ!」
妖怪退治用の呪文?を詠唱しようとした矢先に、どうやらやられてしまったらしい。
壁に投げつけられたような轟音と衝撃が伝わってくる。
二階に上がる階段までは、まだ距離がある。
だけど、振り返った先には
「――ゲギャギャ♡」
……駄目だ、もう捕まる!!
ヤツの手がアタシを掴もうとしていた――次の瞬間、
「――あかりに、触れるなッ!!」
アタシの危機に気づいたのか、先に進んでいたはずの沙雪が身を挺して色餓鬼の手を叩き落とす――!!
パァン!と勢いよく音が響き渡る。
「……」
「……」
叩かれた自身の右手をさする色餓鬼と無言で対峙する沙雪。
「……ゲギャ」
「やめてください」
おそるおそる再び右手を出してきた色餓鬼に沙雪が拒絶しながら再びはたく。
ひょっとしたら、このままイケる――!?
そう思ったけど、向こうも流石にこの状況に順応したのか、これまで以上に激昂しながらこちらに飛び掛かってくる!!
「――ゲギャギャァッ!!」
「……ごめん、あかりッ!!」
「いやいや!むしろよくやれた方でしょ!?」
とはいえ、これは流石に絶体絶命かと諦めかけていた――まさにそのとき、
「――ボナペティ?」
その声を聞いた瞬間、アタシ達の目の前まで爪を振り下ろしていた色餓鬼の動きが止まる。
どうやら声の主であるボナペティおばさんがちょうどキッチンで調理を終えたらしく、特製パスタが出来上がったことを伝えに来てくれたようだった。
……なんかおばさんにアタシ達が置かれている状況のこと、上手く伝わってねぇんじゃねぇかな???
そんな疑問を挟む間もなく、色餓鬼が即座におばさんのもとへと疾走する――!!
「駄目ッ!!ボナペティおばさん、逃げてッ!!」
「ゲギャギャギャギャッ!!」
アタシの叫びもむなしく、色餓鬼が即座におばさんが用意してくれた特製アマトリチャーナを勢いよく啜り、平らげていくッ――!!
「ズゾゾッ……ズジュルルッ!!」
……いや、襲い掛かるんじゃないのかよ!?
そりゃ想像していた状況より遥かにマシだけど、それはそれとしてパスタ食うな!!
「ボナペティ~♡」
色餓鬼の食べっぷりを前に気を良くしたおばさんが、よっぽどコイツが空腹で可哀想と判断したのか、アタシ達の分と思われるパスタまで差し出す。
「あぁ、濃厚なトマトソースの香りが~……あの色餓鬼、よくもアタシの分まで!」
「言ってる場合じゃないでしょ。……多分、今は私達のような女子高生をつけ狙う卑劣な妖怪になったけど、色餓鬼はもともと人妻との不倫にのめり込んだ少年がなり果てた存在。……だからだと思うけど、鬼になっても、人間だった頃の年上に好かれやすい振る舞いが染みついたままなんだと思う」
「なるほどねぇ……もしくは、人間だった頃に不倫相手の人妻からそういうパスタとかを作ってもらったりしてつい懐かしくなっちゃったのかもね?」
「……そんな風に他人の気持ちを考えられるなら、どうして……」
「えっ?ゴメン、今なんて言ったの?」
「……別に、なんでもない」
……?急に不貞腐れてどうしたんだろう。
とにもかくにもそんなやり取りをしながら、アタシ達は二階へと駆け出す――!!
「ゲギャギャ!……ゴチソウサマデシタ」
「ボナペティ!」
口元のソースをつけたまま御礼だけは告げるという”わんぱくざかりの少年”アピールをする小賢しい色餓鬼と満面の笑顔で親指を立てながら見送るおばさんの姿を階下に見据えながら、アタシ達はギリギリのタイミングで部屋へと飛び込む――!!




