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第三話 静寂塞 憐徒とボナペティおばさん ~$忍び寄る怪異オブジェクトの誘惑$~

 ――沙雪を連れて何とか自宅へと駆け込むことに成功した私と沙雪。


 ハァ、ハァ……と息を吐きながら、玄関先で今後の方針を話し合うことに。


「今のところは大丈夫だけど、これからどうしよう……あの色餓鬼ってヤツ、アタシ達が恵方巻を食べてすぐに現れた訳だし、このまま逃げ切れたとはとても思えんわ」


「だからと言って、このままあかりの家にいたら私達が招いた出来事にあかりのおばさん達を巻き込むことになりかねないし……」


「あ、それなら大丈夫。沙雪も知っての通りアタシの両親共働きで結構いないことが多いんだけど、今日は二人ともいない日だから」


 それを聞いた瞬間、沙雪がガンギマリとでもいうべき眼光でこちらを見てきたがそれも無理はないかもしれない。


 なんせ現状では頼れる大人がおらず、アタシら二人であのマトモじゃない”色餓鬼”という怪物を何とかしなくちゃいけないのだ。


 私も怖いけど、それと同じかそれ以上に沙雪も心細いに違いない……。


 そんなアタシの気持ちが伝わってしまったのか、「私の馬鹿、今はそんな場合じゃない……!!」と首を激しく振った沙雪が深呼吸してから、ゆっくりと告げる。


「――あかり、よく聞いて。あの色餓鬼という怪異は私達が引き寄せた以上、おばさん達が不在の間にアイツを討伐する責務が私達にはあるの」


 沙雪の気迫に思わずゴクリ、と息を飲みながらもアタシは返答する。


「それはわかるよ、沙雪。……でもさ、そんなお化けの知識とかなんかスッゴイ能力?なんて持ってないアタシらであんなのを倒せって言われてもどうしたらいいのかわかんないよ!」


 ……我ながら思考放棄としか言いようがない情けない泣き言だと思う。


 そんなアタシに呆れてもいいはずなのに――沙雪が落ち着かせるように、微笑みながらやさしく語り掛ける。


「……不安にさせちゃってごめん、あかり。でもきっと大丈夫だよ。――私達だけなら到底無理でも、こういうのを専門にしている人を私は知ってるから」


 ……なんだろう、一気に雲行きが怪しくなってきたな。


 不安になっているアタシとは裏腹に、意気込み十分な沙雪がスマホで文字を打ち込み始めていく――!!









 ……沙雪が電話をしてから約一時間後。


 玄関の覗き口から外を確認しながら、アタシはため息をつく。


「うわ~……現状仕方ない事とはいえ、本当に得体のしれない男の人が家の前まで来てる……沙雪、本当にこの人で大丈夫なの?」


「うん、オカルト系の動画チャンネルで知り合った人だけど……今思うと、やっぱり私もちょっと不安になってきた」


「勘弁してよ~……」


 先ほどまでから一転、早くも暗礁に乗り上げそうな気配プンプンである。


 とはいえ、このままでは埒が明かないのも事実。


 そう判断したアタシは、再び重いためいきを吐きながらゆっくりと玄関の扉を開く――。



「――この世は陰と陽、光と闇、チョコデニッシュとコーヒーデニッシュのように全てが二律背反した要素によって構成されている。そんな相克の果てに境界を守る調停者、それがこの静寂塞(しじまさい) 憐徒(れんと)である。……待て、呼んでおきながらいきなり扉を閉めるんじゃあない」



 ……ダルイよ~、あまりにもダルすぎる!


 第一、コーヒーデニッシュってなんだよ。


 そんなコンビニで売ってるところを見たことない味で、チョコデニッシュと対比した気になってるのがあまりにも痛すぎる。


 見れば青白い顔にひどい隈、よれよれのコートを羽織った彼は、およそ頼りがいとは無縁の『世俗慣れしてないだけの冴えない男』という印象しかなかった。


 ……とはいえ、せっかく沙雪が呼んでくれた上に今のままだと打つ手がないし……かと言って、こんな胡散臭い見ず知らずのオッサンを家にあげたくないな……と俯きながら逡巡していた、まさにそのときだった。



「――ボナペティ?」



 その声を聞いた瞬間、アタシはハッ!と顔を上げる。


「――ボナペティおばさん!!」


 そうだ!忘れていたけど、アタシにはこの人がいたんだ!!


 見れば、憐徒さんの右斜め後ろの道路から心配そうにこちらを見ているおばさんの姿があった。


 怪訝な表情をしながらアタシとおばさんを見比べる沙雪と憐徒さんに、彼女を紹介する。


「この人はボナペティおばさん!アタシの隣に住んでいる人で、両親がいない日はときどき美味しい特製パスタを御馳走してくれる親切な人なの!……良かった~、ママはボナペティおばさんに頼んでくれてたんだ」


「ボナペティ!」


 そのままボナペティおばさんと軽く雑談をしている内に、この変わった三人の組み合わせを疑問に思った彼女に説明する流れになってしまった。


 常識的に考えるまでもなくあまりにも馬鹿馬鹿しい話であるにも関わらず、アタシと沙雪の様子からただならぬ事態を察したおばさんは、驚くべきことに自分から色餓鬼の撃退への協力に名乗り出てくれたのだ!!


「えっ!?本当にいいんですか!」


「ボナペティ♪」


 そう陽気に答えるおばさんを前に、嬉しさのあまり思わずハイタッチをするアタシと沙雪。


「…………………………」


 何か言いたそうに憐徒さんがこちらを見ているが、それは仕方ない。


 ボナペティおばさんを巻き込むことになったのは申し訳ないが、正直言うと得体のしれない男の人を女子高生二人しかいない自宅に招き入れるのは化物に狙われるのとは別種の恐怖があるけど、おばさんがいてくれるならこれ以上に心強いことはないからである。


 ”色餓鬼”という未知の脅威と戦うには、ちょっと頼りないけどそれでも一緒に立ち向かってくれる仲間達を見回す。


 ――クールぶっているように見えても、誰よりもあったかいハートを持ったアタシの大親友:沙雪。


 ――見るからに得体が知れなくて胡散臭いけど、とりあえずこんな異常事態に立ち向かう手段を持ってそうなオカルトマニア:静寂塞(しじまさい) 憐徒(れんと)


 ――本来自分には全く関係ない出来事のはずなのに、普段通りのお節介ともいえる親切心で協力してくれることになった頼もしい隣人:ボナペティおばさん。


 ――両側面から不格好な鉄製のマジックアームを伸ばし、台座が重厚なキャタピラで出来た豪華な電飾で彩られたカジノのスロットマシンらしきもの。


 ……えっ?最後の、なんだコイツ?


 しれっと憐徒さんの左隣にいるから味方と錯覚しかけていたけど、いくらまとまりのないメンバーばかりとはいえ流石に場違いにもほどがある。


 思考が追いついてないアタシに代わって、沙雪が憐徒さんに尋ねる。


「あの、憐徒さん……そのロボットは、憐徒さんが連れてきた色餓鬼対策用の戦力か何かですか?」


 一瞬、何を言われているのか分からないといった様子で首を傾げた憐徒さんがようやく自身の左側にいたカジノマシンの存在に気づいたかのように「うわっ!?」と盛大に声を張り上げる。


 腰を抜かして目を見開きながらも、威厳を取り繕うかのようにわざとらしく咳払いしながら立ち上がって告げる。


「……驚いたな、コイツは”ネオン・キャタピライド”。人の心の隙間に漬け込むかのように過剰なまでの勝利演出で大台に乗らせながら対象をギャンブル依存症に走らせ、最後には破産させてしまう恐ろしい怪異オブジェクトというヤツだな」


 ……えっ?


 じゃあ、色餓鬼と同様の(見た目完全に機械だけど!)お化けみたいなヤツが真横にいたのに、沙雪から指摘されるまでこの人全く気付いてなかった……ってこと!?


 始まる前から、早くも(本当の本当に大丈夫か!?このオッサン……)というレベルにまでアタシの中の静寂塞(しじまさい) 憐徒(れんと)という人間に対する認識は下方修正していた。


 そんな視線に気づいているのかいないのか、憐徒がなおも説明を続ける。


「……おそらくだが、恵方巻の間違った食べ方で色餓鬼を招き寄せてしまったことで、今の君達二人は怪異と双方向で知覚・認識されやすくなっており、このオブジェクトはそんな君達の不安に引き寄せられるようにここに出現したんだろう」


「まぁ、平たく言えば泣きっ面に蜂ってヤツだな」と軽く言う憐徒にわかりやすくムッとした表情を浮かべる沙雪。


 アタシも完全同意だったため軽く頷くと、そんなメンバー間の不協和音を察知したかのようにネオン・キャタピライドが「ガガッ……ピーッ!」と音を出しながら機械の腕が不器用に動き、リールが「7・7・BAR」を表示しながら派手な音楽とともに盛り上がりそうな演出をし始める。


「うっさい!近所迷惑でしょ!!」


「ボナペティ!!」


 アタシとおばさんの一喝で「ジャララ……」と一旦は収まったものの、結束が乱れると見るや否やすぐさまギャンブル依存症に陥らせようと誘惑してくるあたり、ユニークな見た目に反してコイツも”怪異オブジェクト”という脅威であることは間違いなかった。





 ――始まる前からあまりにもまとまりのなさすぎるチームメンバー。


 ――色餓鬼というアタシ達をつけ狙う凶悪な怪物。


 ――それに加えて、精神面から崩壊させようと誘惑してくる別方面で厄介な怪異オブジェクト。





 問題山積みにも関わらず、決戦の時は刻一刻と近づこうとしていた……。

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― 新着の感想 ―
このひたすらなカオスぶり。大好きです! ボナペティでひるませたとおもいきや、スロットマシーン。こいつほんまいつの間にいたんや!? もう、次に何がでてくるか、予測できる読者などいないっ!断言!レベルです…
こういうのを専門にしている人って、じゃあドリル納豆じいさんはなんだったのか? という疑問からくる謎の笑いが沸いてきてしまいました(笑)
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