第一話 恵方巻、一緒に食べよ♪ ~アレ?こんなはずじゃ……!!~
――2月3日・火曜日
なんてことはない放課後の帰り道。
帰宅途中にコンビニに寄り道をしたアタシと親友の沙雪は、買い物袋を持ちながら公園のベンチへと腰掛ける。
「……一体なんなの?あかり。もう寒いから早く家に帰りたいんだけど」
その名の通りのクールさを通り越して最早ぶっきらぼうと言わんばかりな口調と表情で沙雪がアタシを睨みつけてくる。
……スラップスティック!
大丈夫、本当はコンビニ行った時点から何となく思いついたことだけど、沙雪ならなんだかんだ呆れつつも許してくれるはずだ。
勢い任せにこの場とは特に関係ない英単語を念じてからそのような倫理的思考を組み立てたアタシは、にこやかに沙雪に向けて購入したブツを取り出す。
「じゃ、じゃ、じゃ~~~ん!!今日はご存じの通り、二月三日!!ゆえに、心の中で滅殺の星を思い描きながら仲良くこの”恵方巻”を両端から食べ合いっこしようよ♡」
寒空の中で引き留めてからの、あまりにもしょうもなさすぎる青春感あふれる渾身のギャグ。
一歩間違えば殺意が湧いてもおかしくないフリかもしれないが、沙雪ならいつも通り呆れつつもツッコみながら「さっさと帰るよ」と切り上げてくれるはずだ。
「いいよ。それじゃあ、やろっか」
???ち、ち、ちん???
思いも寄らぬ切り返しに思考停止したアタシに、沙雪が続ける。
「今のあかりからは、『てっきり自分で食べるためかと思っていたら、寒い中引き留めてまでそんなこと提案してくるとか本当にしょうもない……』とか『馬鹿なこと言ってないで、お互いに早く帰るよ』と私からのツッコミ待ちを期待している”甘え”が見える。――それなら私は、あかりの予想の上を行く」
……何がそこまでアナタの闘志に火をつけちゃったんです???
そんな言葉を発する間もなく、沙雪が無言で私が持っている恵方巻に一瞥してから冷たく告げる。
「早く準備して」
「え……あっ、ハイ」
言われるがまま、アタシはパックから取り出した恵方巻を口にくわえると沙雪の方に向けて差し出す――!!
「………………」
「………………」
公園のベンチで見つめ合いながら、両端から恵方巻を食べ合う二人の女子高生。
……いや、本当になんだコレ?
ポッキーゲームならいざ知れず、太巻きを無言でもそもそ食ってる絵面なんて傍から見てエロいのか?
撮れ高あるんでしょうか。
わからない、何もわからないなりに徐々に食べ進めていく。
もっきゅ、もっきゅ……。
……それにしても沙雪、無駄にまつ毛長いな。
こんな馬鹿みたいな状況なのにあまりにも顔が整い過ぎていて滑稽さを感じるどころか『この非現実的な光景を独占してんのはアタシだけなんだ』というあり得ない思考が脳裏に浮かぶ。
本当に、なんなんだコイツは。
せめてこらえきれずに吹き出すなりなんなりしてくれたら、こっちだってボロボロこぼしながらも「いきなり、なにすんだよ~!」とか言いながら笑って常識的な現実に戻ることが出来るはずなのに、いつまでも真剣なまなざしでこっちを見つめてくるからそんな逃げ方すら出来そうにない。
おまけに恵方巻だからどうしても嚙み切ってから咀嚼しなくちゃいけない瞬間が来るんだけど、それに合わせたよう具材が落ちないようにさりげなく支える気配りまで発揮してくる始末。
普段から口ではそっけない風に装っていても、コイツには本当にこういうところがあるのだ。
そのせいでアタシは、このタコッ!と言いたい気持ちすらをも咀嚼した恵方巻の具材ごと呑み込む羽目になっているのである。
もっきゅ、もっきゅ……♡
10センチ、5センチ、そして3センチ――。
冗談半分だったはずの空気は完全に雲散霧消し、沙雪の冷たい瞳にはアタシの長い睫毛が映り、アタシの鼻先には沙雪の清潔感のある石鹸の香りが届く。
(えっ!!ウソウソッ!?……このままじゃ、アタシ達本当に――!!)
お互いの吐息が触れ合い、唇がぶつかるまであと数ミリ。
心臓の鼓動がうるさいくらいに耳元まで響き、観念して目を閉じようとした――まさに、その時。
「コラーーーーッ!!……お前ら、なんてことをしてくれとんじゃいッ!!」
アタシ達の間を引き裂くかのように、老人の怒鳴り声が響き渡る――!!




