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Hey Taxi  作者: hsgwwr
4/12

健康の星

幾つもの星を経由してきた。

宇宙の感覚にも慣れ、爆音のレゲエにも慣れてきた。

下げてくれ、と毎朝タクシーに乗る度に伝えているのだが、この男は下げようとしない。


「お客さんが術後に元気なかったら下げてあげますよ、今ピンピンしてるから、この音量にも耐えられるかーと思って流しているんです」


帰りもこのタクシーなのだ、きっと術後はピンピンしているだろうから、爆音は確定だ。

うんざりした。


───両親を失い、親族を何人も失い、仕事でもうまくいかず心の病を患った。


自殺未遂もした。

それでいて、死ねなかったから、生きようと思い、木星まで向かうことにした。

だが、死にたいと思う意欲は簡単には消えてくれない。


母親と最後の会話は「元気でいなさい」というメッセージだった。

それは呪いとなり、私に襲いかかった。

だからこそ、木星に行くのだ。


───モニターを操作し、閉じた。今日も仕事を終えた。

残業があればもう少しスケジュールより先を走ることができるのだが。


「もう少しでサービスエリア寄りますよー、疲れたんで一時間くらい休憩もらいまーす」


格安タクシーだからこそ、この自由奔放ぶりがあるのだろう。


「次は健康の星でーす、体調とか悪かったら診てもらえるんで、木星まで行かなくてもいいかもしれないですね」


わざわざ地球から木星に行く腹積りで来たのだ、そんな聞いたこともない星で治療なんか受けてたまるか。


───サービスエリアの入り口に入ると同時に、電光掲示板に『未治療一名』と表示された。

チラとしか見えてないが、そう書いてあったように思う。


駐車し、タバコを吸いがてらトイレへ向かおうとしたら、どこにそんな人がいたのかわからないほどの人数が私を取り囲んだ。


「お疲れ様でした」

「ここまでよく耐えましたね」

「コーヒーをご提供させてください、お好みはございますか」


次々に声をかけられ、戸惑う。

「コーヒーにこだわりはないです、ブラックで…」

というと即座にコーヒーのカップが手渡された。


「お手洗いに行きたいのですが…」

「あぁ、失礼しました、持っておりますので、どうぞ」


四木はスタスタと先を行き、私を取り囲んだ連中は私がトイレに入るまでついてきた。


トイレから出ると、促されるようにサービスエリアの施設へと歩かされた。


「重度の精神疾患ですね、本当によく耐えて…耐え抜きましたね、頑張りましたね…」

と白衣を着た女性は泣き出した。

周囲の人たちも同じように涙ぐみ、私を椅子に座るよう促した。


「もう安心してください、大丈夫なんて言葉は使わないです。安心してください、ここで完全に治して行きましょう」

「いえ、大丈夫ですよ、これから木星に行って治療してもらうので」

「木星のあの大きな病院ですか?」

「はい、ノギマコ大附属病院です」


すると周囲は柔和な笑みで私に語りかけた。


「ここでの治療は、脳の洗浄や切除など、荒療治は行いません。まず後遺症は残らないし、副作用もあまり出ません。はるばる地球からお越しになられているでしょう、ここに停まったことはラッキーですよ」

と、シャツにカーディガンを着た男は私の詳細を知った上で話しかけてきた。


「私も、彼も、ここで治療を受けて完治しました。地球や木星のようなところよりももっと、安価で安全で、痛みもなく、治療に専念できます」

二人の男女が微笑みながら、私を見て幸せそうな表情を浮かべていた。


「おかしな宗教や、団体ではありません。星全体をあげて、病に苦しまされる方に手を差し伸べるのです」

「私は、地球で処方された薬がまだ残っていますし、治療されています。苦しみは確かにありますが、それの根本的治療を受けに遥々地球を飛び出して、木星まで行こうというのです、ここで正しくなりたいわけではありません」


それだけはハッキリしていた。


周囲の人は戸惑いながらもこう続けた。

「確かに、サービスエリアに来たと同時に健康診断をされたら戸惑いますよね、わかります。でも、だからこそ、運命的な巡り合いだったのです。ここを発った人たちは皆幸せそうな笑みを浮かべながらこの星を去り、それぞれの世界へと帰っていくのです。ここで根本的な治療を行えます。ですので、安心してください、と最初にお伝えしたのです」


なぜか、理解され始めている。

怖い。一刻も早くこの星を去らなければならないだろう。


「結構です、ご丁寧にお迎えいただいてありがとうございました。木星へ向かおうと思います、では」


周囲はぽかんとし、私を引き留めることはなかった。

ただ、声援のように声をかけられた。


「また辛くなったら、いつでも戻ってきてください」

「健康でなくても、あなたはあなたですから、自分を責めないで」

「木星の帰りでも大丈夫ですからね」


私は逃げるように抜け出し、喫煙所を探したが見当たらなかったのでタクシーへと戻った。


「ここ、好きな人多いんすよ」

「お節介な人が多いですね」

「優しさの一つですよ」

「喫煙所が見当たらなかったのですが、どこにありましたか?」


「健康の星ですよ、喫煙所があるわけないじゃないですか」


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