表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/97

第三十二章:揺れる距離、重なる鼓動

挿絵(By みてみん)

朝靄に煙る林の外れ、小さな野営地に焚き火の名残がくすぶっていた。

 

薄く差し込む朝日を受け、ファナはゆっくりと目を開けた。

寝袋の中でまどろみながら、昨夜の出来事が心の奥にふわりと浮かび上がってくる。

──メルのまっすぐな言葉。

──セナの静かなまなざし。

──リクトの、言葉にしない感情。

 

ひとつひとつは小さな波紋のようだった。

でも、確かに心の中で重なり合い、静かに輪郭を持ち始めている。

 

「“好き”って、こんな風に残るのかな……」

まだわからない。

でも、昨日よりも少しだけ、

誰かの気持ちに近づけた気がした。

 

出発準備が進む中、メルが軽やかに歩み寄ってきた。

「おはよう、ファナ」

 

いつもの芝居がかった調子は鳴りを潜め、代わりに柔らかな微笑が浮かんでいた。

「昨日のこと……覚えていてくれたなら、それだけで嬉しい」

ファナは思わず視線を逸らす。

「うん……あの、忘れてないよ」

返ってきた彼女の声は小さかったが、言葉には確かな重みがあった。

その様子を、少し離れたところからリクトが見ていた。握った拳に力がこもる。

 

列を組んでの護衛が始まり、山道を行く一行の中、ファナとメルが偶然並んで歩く形になる。

「……昨日の告白、真剣だったんだ」

メルの声は、穏やかだがぶれることがなかった。

「今、無理に答えを出せなんて言わない。でも、僕の想いだけは、ちゃんと伝えておきたくて」

 

ファナは俯いたまましばらく無言だったが、やがてゆっくりと口を開いた。

「……私、よくわからないんだ。“好き”って何か、まだちゃんとわからない」

「でも……昨日、メルの言葉を聞いて、胸の奥が、あたたかくなった気がした」

メルは優しく微笑み、足を止めることなくその歩幅を合わせるだけだった。

 

昼過ぎの休憩中、リクトは一人で剣の手入れをしていた。

そこへセナがふらりと現れ、石の上に腰を下ろす。

 

「やあ、いい天気だね」

「……何の用だよ」

ぶっきらぼうな声に、セナは肩をすくめた。

「用ってわけじゃないけど。……昨日のメル、すごく真っ直ぐだったと思わない?」

リクトは何も言わず、黙って石を手のひらで転がす。

 

「君はどうするの?」

セナの言葉に、リクトの手が止まる。

「“ファナのことが好きだ”って……君、もう言ってしまってるんだよ?」

「うるせぇ」

リクトは吐き捨てるように言ったが、声には焦りが混じっていた。

セナは静かに続ける。

 

「……彼女、君にはまだ見せていないような表情を、メルには向けていたよ」

「驚いて、でも少し笑って。僕らが見たことないような、優しい顔だった」

沈黙。

 

リクトの拳が石をぎゅっと握りしめる。

「君の良さは、まっすぐで、ひたむきなところだと思ってた」

 

「だけど、今の君は……その剣をどこに向ければいいのかも、わからなくなってるように見える」

リクトはぐっと睨み返したが、セナの瞳は揺るがなかった。

「……俺は」

 

一言、そう口にしかけて、リクトはそれ以上言葉にできなかった。

だが、その沈黙が、彼の中に灯った炎を隠しきれていないことは、セナにも分かっていた。

 

その夜。

一行は林の中に簡易な宿営地を築いていた。

焚き火がぱちぱちと音を立て、あちこちで食事の準備が進む。

 

少し離れた場所で、ファナが空を見上げていた。星が静かに瞬く。

(“好き”って、どういうことなんだろう)

昨日より今日、

今日より明日。

 

ほんの少しずつ、答えに近づいている気がした。

 

背後には、リクトの姿。

彼は焚き火の向こうから、じっとファナの背中を見つめていた。

(もう、あれこれ考えるの……やめる)

彼の瞳に、炎の揺らぎが映っていた。

 

「……俺も、ちゃんと向き合う」

低く、でもはっきりとした声で、リクトはそう呟いた。

 

夜空は深く、誰の胸にも、熱を秘めた風が吹いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ