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銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第二部

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第二十六章:知らなかった傷あと

挿絵(By みてみん)

朝の空気は澄んでいた。

雲一つない青空の下、ギルドの掲示板にはFランク向けの依頼が一つも貼られていない。

 

「今日は雑用、頼めるかな?」

ギルド職員の女性が声をかけてきた。

「はい、手伝います」

ファナはすぐに頷いた。

「じゃあ、薬草系の倉庫。中は静かだけど、整理がちょっと大変でね」

「ひとりでも平気です」

その言葉に、隣のリクトが少しだけ眉をひそめた。

「……ファナ、本当に大丈夫か?」

「うん、大丈夫。静かなところ、好きだから」

穏やかな笑みでそう言って、ファナは倉庫へと向かっていった。

 

薬草倉庫は、建物の裏手にある薄暗い木造の一室だった。

小さな窓から差し込む陽光は細く、空気は乾燥し、かすかに薬草の香りが漂う。

ファナは黙々と作業を進めていた。棚から取り出した束を種類ごとに分け、箱に収めていく。

 

……その時だった。

背後から、誰かが静かに近づいてくる気配。

「……?」

振り向こうとした瞬間、後ろから回された腕がファナの胸元に触れた。

 

「……あっ……」

一瞬、身体がこわばる。だが、それはすぐに引っ込められた。男の姿も、すでにない。

ファナはその場に立ち尽くし、そっと胸に手を当てた。

 

「……なんだったんだろ、今の……」

不思議そうに首をかしげ、数秒ののち、彼女は何事もなかったように作業を再開した。

 

夕方、ギルドの受付に戻ったファナは、他の依頼者と同じように報告の列に並び、笑顔で職員に声をかけた。

 

「作業、終わりました。あの……今日、後ろから知らない人に変なところ触られて……」

 

受付の女性の表情が一瞬で凍る。

「……今、なんて?」

「え? えっと……胸のところ……かな? でもすぐいなくなったし、大丈夫です」

「ファナさん、少しここで待っててください」

 

すぐにギルド内が慌ただしく動き出した。

事の重大さを認識した職員たちは、即座に倉庫周辺の確認と冒険者の動向を調査。

犯人は数時間のうちに特定され、冒険者資格を永久停止処分とされる。

 

夜。ギルド応接室には、カイルとレリアが呼び出されていた。

「まず、加害者には冒険者資格の永久停止処分を下しました」

職員の口調は冷静だったが、深刻さがにじむ。

 

「ただ……もっと問題なのは、ファナさん本人が“被害だと認識していなかった”ことです」

レリアの顔が強張る。カイルは黙ったまま、拳を握って立っている。

「……わかりました。あの子と、話をします」

 

宿に戻ると、ファナはいつもと変わらぬ様子だった。

「……おかえりなさい」

そう微笑む彼女の隣に、カイルが無言で腰を下ろす。そして、そっと頭を撫でた。

 

「……カイル?」

ファナがきょとんとする。

「なあ、ファナ」

今度はレリアが優しく問いかけた。

「あのとき……嫌だと思った?」

 

ファナは少し考えてから、困ったように首をかしげた。

「……わからない。怖くはなかったけど……胸がざわざわして、へんな感じだった」

レリアはゆっくりと頷いた。

「それが“嫌”だってことなの。嫌なことは、嫌って言っていいのよ。女の子だからとかじゃなくて、“ファナだから”」

 

ファナはしばらく黙っていた。

「……嫌だって思っていい、の……?」

「うん。ファナの気持ちが、大事なの」

そっと目を伏せながら、ファナはその言葉をゆっくりと受け止めた。

 

その夜、ベッドに入ったファナは仰向けになり、自分の胸元に手を当てた。

「……あれは、嫌なことだったんだね」

ぽつりと、誰にも聞こえない声でつぶやく。

そして昨日のことを思い出す。リクトの、あの叫び。

『オレだって……ファナのこと、好きなんだよっ!!』

胸がまたざわざわと騒がしくなる。

ファナは小さく身を縮め、顔を布団に埋めた。

 

「……もう、わたし……女の子、なんだよね」

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