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銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第二部

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第二十四章:猫耳とリボンと休日の午後

挿絵(By みてみん)

朝の光は、柔らかなベールのように街を包んでいた。

 

ギルドでの連日の依頼を終えた冒険者たちには、一日の休みが与えられた。

珍しく静かな空気に包まれた朝――ファナは目をこすりながら窓を開け、遠くの喧騒を眺めていた。

「……今日は、自由なんだね」

白いブラウスの袖を整えながら、そっと鏡に映る自分を見つめる。

赤いリボンの髪飾りを結び直し、猫耳をぴょこんと動かした。

 

宿の一階に降りると、すでにリクトは朝食を終え、腕を組んで外を見ていた。

「今日は別行動らしいぞ。たまには一人で散歩も悪くない」

「うん。……街の声を聞いてこようかな。静かに、歩きながら」

「へえ。じゃあ俺は市場の武具屋でも覗いてみるか」

セナは二人の様子を見ながら、ゆっくりと微笑む。

「……君がどこにいても、声は届くと思うけどね。特に、語りたいって気持ちがあるなら」

ファナはその言葉に小さく笑い、「いってきます」と一言添えて、扉を押し開けた。

 

市場の近くに、小さな広場がある。

舗石の隙間から花が咲くような、誰もが足を止める場所。

その日も、陽気な語り部の老婆が即興の物語を披露していた。

小さな子どもたちが地べたに座り、目を輝かせて聞き入っている。

ファナはその輪の少し後ろで、そっと腰を下ろした。

老婆が一つの物語を語り終えると、子どもたちがぱちぱちと手を叩きながら言った。

 

「ねえ! 次は猫のお姉ちゃんの番にしてよ!」

「猫耳のお姉ちゃん、きっとすてきな話してくれるよ!」

「わ、わたし……?」

急に視線を集め、ファナは戸惑う。だが、ふと老婆が優しく言った。

「語りたくなる時ってのは、聞いてほしい誰かがいるってことだよ。やってごらん?」

ファナは静かにうなずき、小さく息を吸って語り始めた。

 

「迷子の小鳥と、月の道標」

小さな鳥が夜の森で迷子になり、声を上げる。

すると、雲の間から月が顔を出し、やさしい光で森の小道を照らしてくれる――

 

そんな、ほんの数分の、短くて静かな物語。

話の終わりに、子どもたちが一斉に拍手を送った。

「すてきだった!」

「また話して!」

「猫のお姉ちゃん、すごい!」

ファナは恥ずかしそうに笑いながら、「ありがとう」とだけ返した。

 

その時――少し離れた柱の影から、セナがゆっくりと歩み寄ってきた。

「……やっぱり、君の語りは誰かを照らす。柔らかくて、あったかい」

「セナ……見てたの?」

「うん。ずっと聞いてたよ」

 

子どもたちが騒いでいる間、セナはそっとファナの横に腰を下ろした。

「僕は、君の話をずっと聞いていたい。……個人的にも、ね」

 

「……え?」

ファナは瞬きをしてセナを見つめた。

「ありがとう。でも……それって、どういう意味?」

セナは笑みを崩さず、軽く首を傾けて答えた。

「気にしないで。今は、それだけ伝われば十分だから」

ファナはよく分からないまま、それ以上は何も言わず、ただ耳をぴくりと動かした。

 

しばらくして、子どもたちが露店の一つで買った小物を持って戻ってきた。

「これ、似合うと思って!」

差し出されたのは、赤いリボン。ファナの髪飾りとよく似た、けれど少し新しいものだった。

「……ありがとう。こっちに、結んでみようかな」

ファナが耳のそばに新しいリボンを結ぼうとすると、セナがふと目を逸らすことなく言った。

「……君に、すごく似合ってる」

ファナは一瞬止まり、そして少し頬を赤らめて、ぽつりと答える。

「変じゃない……なら、よかった」

 

夕暮れの空が街を茜色に染めていた。

帰り道の途中、並んで歩くファナとセナの間に、ふわりと風が通り過ぎる。

「……語るのって、まだ好きみたい」

ファナがぽつりとつぶやくと、セナは少しだけ彼女の横顔を見て言った。

「……それが、君らしさなんだよ」

 

その言葉の意味までは、ファナにはまだ分からなかった。

けれど、不思議と心に残っていた。

「……ありがとう」

 

そう、そっと返して――

猫耳を揺らしながら、彼女はゆっくりと空を見上げた。

そこには、もうすぐ星が瞬き始めようとしていた。

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