表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/95

第二十二章:足跡の先に

挿絵(By みてみん)

朝靄が森を包み、湿った空気が肌にまとわりつく。

 

ファナは、廃村の近くに設けられた小さな野営地で荷物を整えながら、遠くの地面に残された魔物の足跡を見つめていた。

黒い尻尾が静かに揺れ、猫耳がぴくりと反応する。

「こっち、最近通った跡……。足の爪が深い。大型……たぶん、単独行動型の魔物」

 

「おっ、推理してるな。さすが語り部さん」

軽快な声が背後から聞こえる。

振り向けば、明るい赤のマントを翻しながらメル・エルドリアが片手をひらひらと振っていた。

「再会を祝して、まずは一言。今日も魅惑的だ、ファナ嬢」

 

「……また、それですか?」

ファナは若干眉をひそめ、困ったように答える。

その後ろで、リクトが「チッ」と舌打ちをし、セナが「メルくん、もう少し節度を持って」と穏やかに牽制する。

 

ラゼル・クラウザとバルク・ネイドも少し後ろに立っていた。ラゼルは静かに全体を見渡し、バルクは無言でファナの様子を観察している。

 

今回の任務は、ギルドが設定した合同調査。

街から離れた廃村周辺で、出没した魔物の痕跡を調べ、必要なら撃退するという内容だった。

参加するのは、ファナたちと――ライバルパーティー「暁鋼の牙(ぎょうこうのきば)」。

「お互い足を引っ張らないように。それでいいな?」

ラゼルの冷静な言葉に、リクトがやや睨むように答える。

「ああ、そっちこそな」

 

ファナは、その間に立ちながらも、視線を少し横に向けた。

木陰に佇むバルクが、静かに何かを感じ取っているようだった。

「……何か見つけたの?」

彼は驚いたようにほんの少しだけ視線を向け、そして短く答える。

「獣の……匂いが濃い。昨日より近づいてる」

「わたしも、そんな気がした。風が……変わったから」

バルクは黙って頷いた。言葉は少ないが、わずかに共鳴する感覚が、ファナの胸に残った。

 

午後、調査は本格化した。

森の奥に残された倒木や、引き裂かれた獣の痕。明らかに人為的ではない。

 

「これは……“ガルアク”か。この辺りの魔物の中じゃ、厄介な方だな」

セナが古文書をめくりながら説明する。

体長は二メートルを超え、皮膚は刃を弾くほど硬い突撃型の魔獣。

しかも単独で縄張りを移動する習性があり、今回はちょうど廃村を通過点にしている可能性が高かった。

 

「姿を見せるのも時間の問題だな」

ラゼルが呟く。

その言葉の通り、夕刻――空が朱に染まり始めたころ、茂みの向こうから獣の唸りが響いた。

 

「来るぞ――ッ!」

最初に動いたのはラゼル。長剣を抜き、仲間に指示を飛ばす。その指示に従い、暁鋼の牙は即座に隊形を取る。

「俺たちも! セナ、援護頼む!」

「了解。リクト、少し前に出て、ファナは中央から動きを見て」

 

セナの魔力が揺らぎ、光の弾が空を裂いた。

同時に、突撃してくるガルアクにリクトが斬りかかる。

刃は跳ね返されたが、次の瞬間、ファナがその脇をすり抜け、足元へ低い姿勢で回り込む。

 

「今ッ!」

ファナの短剣が脚の関節を切り裂いた。

ガルアクがバランスを崩したその瞬間、ラゼルが真上から斬りかかる。

リクトとバルクが左右から支援し、メルとセナの魔法が着弾。轟音とともに、ガルアクが崩れ落ちた。

 

静寂が訪れる。魔物の死骸を見つめながら、ラゼルが静かに呟いた。

「思ってたより……やるじゃないか」

その言葉に、リクトが顔を上げる。

「ん? 今、なんて?」

「別に。……ただ、実力は見えた。次に会うときは、敵かもしれないな」

「……ッ!」

 

ファナは息を呑んだ。

どこか淡々とした口調で言ったラゼルの一言は、冗談にも本気にも聞こえた。

だが、彼の灰色の瞳は確かに“覚悟”を秘めていた。

 

夜。星が瞬く空の下、ファナたちは焚き火のそばで静かに座っていた。

「……敵ってさ。そんな、すぐになるもんなのか?」

リクトがぽつりと呟く。ファナは、炎を見つめながら答えた。

「分かんない。でも、そう言えるくらい……私たちが“冒険者”として見られた、ってことなのかも」

「うん。ラゼルくんの言葉は、たぶん認めたってことだよ」

セナの穏やかな声に、ファナはそっと頷いた。

 

静かな夜風が木々を揺らし、焚き火の音だけが耳に心地よく響く。

「わたし……もっと強くなりたい。強くなって、ちゃんと選べるように。誰と、どう向き合うかって」

「……お前らしいな」

リクトが小さく笑い、セナは優しく肩を寄せた。

三人は、まだ未熟で、小さな冒険者にすぎない。

けれど、その足跡は確かに、未来へ続いている。

 

――星空の下、誰にも見えない場所で、静かに絆は結ばれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ