第二十章:初依頼、そして交錯する思惑
仮登録期間を終え、Fランクとしての正式な冒険者になったファナたちは、初めての“正式な依頼”に臨むことになった。
ギルドで掲示板に並ぶ依頼票を見つめながら、ファナは小さく息をのんだ。
「……これが、最初の一歩なんだね」
リクトが腕を組みながらうなずいた。
「とはいえ、模擬依頼みたいなもんだろ? 本格的な戦闘じゃないって話だし」
「依頼内容は、街道沿いに設けた簡易野営地での夜間警備だね。依頼主は……商人?」
セナが確認すると、ちょうどその依頼主──太った腹を揺らした中年の男が近づいてきた。
「おお、君たちが今回の護衛かね? うんうん、若いってのはいいなぁ。特に──」
その視線はファナに向かう。
「君、可愛いねぇ。獣人ってのもまた珍しい……今回の警備、前後に立つのは男連中でいいからさ。君は、私の隣で休憩しててくれると助かるよ。癒やされるし?」
「……え?」
ファナはきょとんとした表情で固まる。意味がよく分かっていない様子だ。
セナが無言で一歩前に出ると、リクトが低く怒鳴った。
「ふざけんな。俺たちは護衛に来たんだ。そんなことのために来たんじゃねぇ」
「ま、まあまあ、冗談さ、冗談。若いのは怖いねえ」
依頼主は手をひらひらさせて場を収めようとしたが、セナの目は冷たいままだった。
夕刻、野営地。
三人は持ち場に分かれて配置された。
ファナは後方の見張り、セナが前方警戒、そしてリクトがその間を巡回する。
静かな夜。焚き火のぱちぱちという音だけが辺りに響いていた。
ファナは木の陰にしゃがみながら、リクトにこっそり尋ねた。
「ねえ、さっきの依頼主さん……なんで、あんなこと言ってたの?」
「……お前、本気で分かってなかったのか?」
「……うん」
リクトは顔を赤くしつつ、むっと口を引き結んだ。
「……ああいうのは“ナンパ”って言うんだ。女の子に言い寄る、って意味だ。からかったり、自分のモノにしようとしたりな」
「へぇ……」
ファナはきょとんとしたまま、小首を傾げる。
「わ、わかんねぇならいいんだよ! 無理して覚えなくていいっ!」
そんなリクトの焦った様子に、セナが笑いながら割って入る。
「リクトくん、顔真っ赤。かわいいね」
「うるせぇ!」
三人のやり取りに、遠くから依頼主がちらちらと視線を送っていたが、セナの冷たい一瞥にすぐ目をそらした。
やがて任務は無事に終わり、ファナたちは初の依頼を完遂することとなった。
帰り道、三人は夜明け前の街道を歩きながら笑い合う。
「……大変だったけど、これが“冒険者”なんだね」
「そうだな。でも、ちゃんとやり遂げたじゃねぇか」
「初めてにしては上出来だったよ。次は、もっと本格的な依頼に挑戦できそうだね」
「次はもっとまともな依頼がいいな」
「同感。できれば依頼主もね」
「えっ?」
──それぞれの想いを胸に、三人はまた一歩、“本物の冒険者”へと近づいていくのだった。




