第十九章:模擬依頼と暁鋼の牙
ギルドの訓練場に集まった新米冒険者たちの中に、ファナ、リクト、セナの姿があった。
仮登録期間を終えた三人にとって、これは初めての“正式な模擬依頼”。
仲間と共に、新たな一歩を踏み出す場だった。
ギルド職員からの説明が終わると、集まった冒険者たちはそれぞれの班に振り分けられていく。
「おっ。おまえらが話題の三人か」
鋭い声がした。現れたのは、三人組の青年たち。
中央に立つのは、灰色の瞳とポニーテールの少年──ラゼル。
冷静な目をしているが、その背後に立つ二人の存在感も強い。
ひとりは獣人──影狐族と思しき鋭い目つきの少年。無口にファナを見つめる。
そしてもう一人、目立つのは白のローブに赤のマントを羽織った、芝居がかった青年だった。
長めの金髪が風に揺れている。
「我が名は──メル・エルドリア! 紅き叡智の導き手にして、真なる知の探求者!」
手を広げて名乗ったメルに、周囲が一瞬静まり返る。
ファナは目を瞬かせた。
「……えっと、こんにちは?」
「なんと清らかなる声音。君の名は? そして、その愛らしき尾と耳を隠すことのない誇り高さ……美しき魂の化身よ!」
「……え?」
困惑するファナに、メルはさらに踏み込んでくる。
「この依頼が終わったら、一緒に街で一杯どうだい? 甘い菓子と語らいと、夜風を添えて……」
「えっと……リクト? この人、なんか、すごく話しかけてくるんだけど……」
ファナはそっとリクトの袖を引っ張った。リクトは眉をしかめてメルを睨む。
「……こいつ、ナンパしてんだよ」
「ナンパ?」
「つまり、いい感じになりたいって、調子のいいこと言って近づいてくる奴。気をつけろよ、こいつチャラいぞ」
「ふーん……ナンパ……。でも、何言ってるのかよく分かんないや」
ファナがぽつりと言うと、リクトは思わず吹き出しそうになり、セナが苦笑した。
「……君は天然すぎて、逆に心配になるよ」
そんなやり取りの中でも、メルは構わず続ける。
「私はいつでも君の騎士となろう、ファナ嬢!」
「……騎士って、セナさんとかリクトくんは?」
「彼らは良き仲間さ。だが私は、それ以上の未来を──」
「はい、そこでストップだ、メル」
リーダー格のラゼルが一言だけ冷たく言い放つ。彼の背後のバルクも無言のまま、じっとファナたちを見つめていた。
ギルド職員の声が再び響く。
「それでは模擬依頼、開始します!」
模擬依頼の内容は、遺跡跡の調査と簡易掃討。
ファナたち三人と、暁鋼の牙は別班だが、隣接した区域を担当している。途中で顔を合わせることもあり、互いに実力を図り合う空気が流れる。
戦闘中、リクトは剣を振るい、セナは広域魔法で後方支援。ファナも動きを読み、機敏に駆ける。
「──敵の後ろ、任せた!」
リクトの叫びに、ファナは素早く背後から短剣で切り込む。
「やった……!」
その時、少し離れた位置にいたメルが余裕の笑みを浮かべていた。
「可憐にして勇ましきその姿……まさに僕の詩にふさわしい!」
「……うるさい!」
三人が声を揃えて言い返したのだった。
──模擬依頼を通じ、三人の絆はより深まりつつ、思わぬ“ライバル”との出会いが、これからの旅に色を添えていくのだった。




