第十八章:焚き火のそばで
夜の静寂が辺りを包む中、三人の影が揺れていた。
野営地の片隅、小さな焚き火が木々の間でゆらりと燃え、その炎が彼らの顔を暖かく照らしている。
その日、彼らは比較的簡易とされる野営監視の依頼を受け、街から少し離れた林道の途中に小さな野営地を設けていた。
「……魔物の気配、確かにあったね」
セナが静かに口を開いた。焚き火越しに、湯気を立てるスープの鍋を見つめながら。
「うん。でも……前ほど怖くなかった」
ファナがぽつりと言った。短剣を鞘に納め、両手で膝を抱えるようにして座っている。その銀灰色の髪が夜風に揺れた。
先ほど、不意に現れた小型の魔物。
突発的な接触ではあったが、ファナは叫ばず、逃げず、冷静にリクトとセナの動きを見ながら立ち回った。数ヶ月前とはまるで違う。
だが、それでも。
「……身体はちゃんと動いたの。でも……胸の奥がぎゅって締めつけられて、足が冷たくなった。……終わってから、震えが止まらなかったの」
ファナは苦笑のような表情を浮かべて、焚き火の炎を見つめる。
「まだ、怖いの。私、きっと……ちゃんとは乗り越えられてない」
その言葉に、リクトがぼそっと呟いた。
「怖くて当たり前だろ」
ファナが顔を上げると、リクトは少し顔を赤くしながら言葉を続けた。
「お前は……いや、ファナは、誰よりも真面目に頑張ってる。俺たちの中で、一番真剣だって思ってる。……怖いって言えるくらい強くなったって、俺は思う」
「……リクトくん……」
「だから……泣きたきゃ、泣けよ。泣いたって、お前が弱いなんて思わねぇし」
リクトのその不器用な言葉に、ファナの瞳が潤む。
「……ありがとう、リクトくん」
隣ではセナが、柔らかく笑っていた。
「ねえ、ファナ。『まだ怖い』って言えた君は、きっともう、大丈夫だよ」
「……でも、私……」
「うん。怖さは消えないかもしれない。でも、その怖さごと誰かを守りたい、前に進みたいって思える君は、僕にとってすごく、強い」
「セナさん……」
ファナは焚き火を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「……少しだけ、泣いてもいい?」
「もちろん」
セナがそっと肩を貸し、ファナはそのまま体を預ける。リクトは少し照れくさそうに顔をそむけつつも、そばに座り直した。
焚き火のはぜる音だけが、静かに響いていた。
──少女は、まだ恐れを抱えながらも、確かに前へと歩んでいる。
隣に仲間がいる限り、その歩みはきっと止まらない。
夜空に瞬く星々の下、三人の影が静かに寄り添っていた。




