第十六章:はじまりの道標
朝靄の中、ギルドの掲示板前にはすでに人だかりができていた。
依頼を探す冒険者たちと、その中に混ざって掲示板を見上げる三人の姿がある。
ファナ、リクト、セナ──正式なFランク冒険者となった彼らが、初めて“本物の依頼”に挑もうとしていた。
「……これとか、いいんじゃないか?」
リクトが指差したのは『街道沿いの巡回と落石確認』という比較的軽めの依頼だった。
「移動距離も短いし、危険度も低いですね。初依頼にはちょうど良いかも」
セナが冷静に頷く。
ファナは少し緊張した面持ちで依頼票を見つめていた。
「……私たち、ほんとうに冒険者になったんだね」
「当たり前だろ。胸張って行こうぜ」
リクトが自慢げに鼻を鳴らす。
受付で依頼を申し込むと、担当者の女性がにっこりと微笑んだ。
「三人での正式依頼、初めてですね。無理をしないこと、そして困った時は引き返す勇気も忘れずに」
「はいっ!」
三人は声をそろえて答え、ギルドを後にした。
依頼の現場となる街道は、村と街をつなぐ緩やかな山道だった。
見た目には穏やかで、森の香りが心地よい。
「ここが、落石があったっていうあたりだね」
ファナが地図を見ながら立ち止まる。
「よし、俺は崖の上を見てくる。セナは地面の割れとか見といて」
リクトが指示を出す。
「じゃあ、ファナは草むらや斜面側の足場を確認してもらえる?」
「うん、任せて」
三人はそれぞれ分担して調査を始めた。だが、開始からしばらく経ったとき──
「こっち、何もなかったぞー!」
リクトがやや大きな声を出しながら崖の上から戻ってきた。
その声に、飛び立つ鳥の群れと──数匹の小型魔物が茂みから現れた。
「っ! くるよ、ファナ!」
セナの声と同時に魔法陣が走る。リクトが剣を構え、ファナも短剣を抜いて距離を取る。
数は三体。牙を剥いた獣型の魔物が襲いかかる。
「くっ……!」
ファナは一体を引きつけ、足を使って誘導する。動きはぎこちないが、冷静だった。
リクトが一体を抑え、セナの魔法が援護に回る。
「そこっ!」
ファナの短剣が斜めに走り、魔物の足元を裂く。
「やったね、ファナ!」
セナの声にファナは小さく頷く。残る一体も連携で仕留め、戦闘は短時間で終わった。
その日の夕方、ギルドに戻った三人は受付へ報告を終え、待合いのソファに腰を下ろしていた。
「……なんか、ちょっとだけ、実感わいてきた」
ファナがぽつりとつぶやいた。
「そりゃそうだろ。初任務、無事完了だ」
リクトは得意げに腕を組み、隣でセナが微笑む。
「この調子なら、すぐに次の依頼にも行けそうですね」
「うん。少しずつでいいから、自分の力で前に進みたい……語らなくても、ちゃんと伝わるように」
その言葉に、リクトとセナは一瞬だけ顔を見合わせた。
「お前さ、ほんとに言うことがかっこいいよな」
「うん。でも、僕はそういうファナが好きだよ」
「えっ……あっ……」
ファナが真っ赤になって顔を伏せると、二人はそれぞれ悪びれずに笑った。
──小さな一歩。でも確かに踏み出した一歩だった。
冒険者として、仲間として、そして何よりも、ファナ自身の物語として。




