第十五章:風が導く道
澄んだ朝の空気が、ギルドの玄関先を包んでいた。
仮登録者たちの中でも、今日は特別な空気が漂っている。再試験の日。
ファナは短く呼吸を整え、背中の荷物をもう一度確認した。
「大丈夫。落ち着いて、自分の足で歩けばいい」
リクトとセナが近くで見守っていた。
「ファナ、あまり気負うなよ」
「君の歩幅で歩けばいい。無理に速く走ろうとしなくていいから」
二人の言葉に、ファナは力強く頷いた。
「行ってきます。今度こそ、ちゃんと歩いて帰ってくるね」
探索試験の課題は、数日前と同じ「指定区域内の異常の記録と帰還」だった。
だが、今回は一人での挑戦。ファナはゆっくりと森へ踏み込んだ。
前回、焦って足を取られたぬかるみを、今回はしっかりと回避。
草木の傾き、折れた枝、風の流れまで観察する。
(何か、動物の通った跡……? いや、違う。魔物の足跡……)
慎重に距離を取りながら、スケッチと簡易な記録をつける。
セナから教わった方法を思い出しながら、冷静に調査を進めた。
途中で見かけた小さな異常──地面の焦げ跡と、魔物の毛のようなもの。
それを見たとき、ふと心に浮かんだ。
(私が見つけたことが、誰かの役に立つかもしれない)
それは、語り部としての過去とは違う、「冒険者としての未来」の予感だった。
数時間後──
ギルドに戻ったファナは、資料と記録、持ち帰った痕跡を提出した。
試験官の男はそれを一つひとつ確認し、最後に目を細めた。
「ふむ……記録も丁寧、危険の回避判断も問題なし。お前、以前と比べて随分と落ち着いていたな」
「……ありがとうございます」
試験官は頷き、次の瞬間、掲示板に一枚の紙を張り出した。
《探索試験:合格 ファナ・ラムゼリア》
ファナは一瞬、息を呑んだ。
合格。自分の力で勝ち取った初めての結果。
彼女が振り返ると──
そこには、待っていたリクトとセナの姿があった。
「おかえり、ファナ!」
リクトが駆け寄る。その表情には満面の笑みが浮かんでいた。
「ちゃんと、帰ってこれた」
「うん。もう……泣かないよ」
ファナは笑いながら言った。
セナがそっと一歩下がりながら言った。
「じゃあ、これで三人一緒に──」
「Fランク冒険者だな!」
リクトが言葉を重ねた。
三人はそろって、ギルドの掲示を見上げた。
その小さな紙切れが、彼らの新たな始まりを告げていた。
「行こう。これからは、冒険者としての本当の旅が始まるんだから」
ファナの言葉に、二人が頷いた。
──風は穏やかに吹き、少女の歩みをそっと後押しした。




