表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/95

第十一章:市のざわめき、追う背中

挿絵(By みてみん)

活気に満ちた市場の通りは、朝日を浴びて色鮮やかにきらめいていた。

果物や布、武具や香辛料──ありとあらゆるものが並び、人々の声と足音がごちゃまぜに響く。

 

「すごい人……」

ファナが小さく呟く。尻尾が警戒するように揺れていた。

「はぐれるなよ、迷子になったら探すの大変だぞ」

リクトが肩をぐっと張って歩く横で、セナは涼しい顔で露店を眺めていた。

「こういう時に財布を落とす人、多いんだよね……」

 

その時だった。

「──財布が、ない……!」

男の悲鳴のような声が、群衆の中から上がった。

反射的に、ファナの耳がぴくりと動く。

「……あっち!」

 

次の瞬間、ファナは人波の間をすり抜けて駆け出していた。

その背に、リクトとセナがすぐに続く。

「待てファナ、どこに──」

「犯人、あの赤い外套!」

 

セナが人混みを見下ろすように叫んだ。

視線の先には、身軽な少年のような男が市場の奥の路地へ駆け込んでいく。

 

「行くぞ、セナ!」

「了解」

 

三人は、自然とそれぞれの役割に散っていく。

ファナは屋根沿いを軽快に飛び、視線を切らさぬように追跡。

獣人ならではの跳躍力と聴覚で、犯人の位置を正確に捉える。

 

リクトは正面突破で路地を突き進み、通行人に道を譲るよう叫びながら走る。

 

セナは通りの構造を分析し、先回りできる交差路へと静かに移動した。

 

「──ここだ!」

狭い裏通りで、ついに犯人が袋小路に追い込まれた。

「チッ……!」

男が踵を返そうとした時、背後からリクトが現れる。

「逃げ場ねぇぞ!」

「……その袋、返してくれない?」

 

ファナの声に、男が振り返る。短剣を抜こうとしたその動きを、ファナが低く構えてけん制する。

だが──それ以上の争いにはならなかった。

セナが一歩前に出て、冷静に告げる。

「ギルドに通報済みだ。無駄な抵抗はやめたほうがいい」

観念した男は、黙って財布を差し出した。

やがて駆けつけたギルド職員たちが身柄を確保し、通行人の証言で事情はすぐに明らかになった。

 

「ありがとう、あんたたち……!」

被害者の男が深々と頭を下げる。それに対し、ファナは少し照れくさそうに笑った。

「いえ……間に合って、よかったです」

しかし、その後ろから聞こえた別の声が、場の空気を少し曇らせた。

 

「……勝手な行動は控えてもらいたいね。仮登録者が調子に乗るのは問題だ」

ギルド職員のひとりが冷たく言う。

ファナは一瞬、肩を縮こませた。

 

だが、その直後──

「それは違うわ。状況を正しく見なきゃいけないのは、職員の側もよ」

穏やかな口調で間に割って入ったのは、リリアナだった。

「彼らは、無闇に動いたんじゃない。目の前の人を助けようとしただけ。仮登録だって、立派な冒険者の卵よ」

職員は口を閉じたまま去っていき、リリアナは小さくファナたちに微笑んだ。

「……ありがとう。いい判断だったわ」

 

ギルドに戻る道すがら、ファナは空を見上げた。

「……怖くなかったわけじゃない。でも……助けたかった」

「おう、ちゃんと走れたしな! 俺なんて三回も転んだけど!」

「地面が避けてくれないことを恨むしかないね、リクトくん」

「はっ、うるせぇ!」

三人の笑い声が、静かな夕暮れの街に溶けていく。

 

──冒険者として、少しだけ前に進めた一日だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ