第十章:初めての正式依頼
「護衛依頼?」
ファナの耳がぴくりと動いた。
ギルドの掲示板に新しく貼り出された紙に、彼女とリクト、セナの三人が同時に目を留めていた。
「そうみたいだな。仮登録でも、訓練を一定数こなしてるとこういう依頼も受けられるって聞いたことある」
リクトが腕を組んで言った。
セナは淡い笑みを浮かべながら紙を覗き込む。
「護衛対象は街道を越える商人。道中は比較的安全だけど、念のためってところかな。初任務としては妥当な内容だと思うよ」
「うん……やってみたい」
ファナが小さく頷いたとき、後ろからギルド職員の女性が声をかけた。
「ちょうどいいタイミングね。あなたたち三人、訓練の評価も高いから、推薦枠としてこの依頼をお願いしたいの」
「やったな!」とリクトが拳を握り、ファナとセナも顔を見合わせて微笑んだ。
依頼主は、どこか軽薄そうな中年の男だった。
上等な服を着てはいたが、目があちこち泳ぎ、口元には妙な笑みを浮かべている。
「へぇ~、獣人の嬢ちゃんか。なかなか珍しいし可愛いな。ほら、お前は俺のすぐ横を歩け。安心感ってのも大事だからな」
「……えっ」
「おい、嬢ちゃんを前に出すな。俺の横な。お前ら、そっちで固めとけ。前をその男、後ろはそっちの細っこいの。いいな?」
「僕はセナです。……後方での支援を得意としているので、それで構いませんが」
「は? 俺は名前なんか聞いてないって」
リクトの眉がひくついたが、ファナは気まずそうにうつむきながら位置についた。
出発してしばらくは、依頼主の軽口に曖昧に笑い返すだけだったファナだが、やがて草むらの揺れに耳がぴくりと反応した。
「何か来る……」
「は? おいおい、脅かすなよ」
次の瞬間、茂みの奥から一体の魔物が飛び出した。大型犬ほどの体躯、血のような赤い瞳。毛並みは乱れ、数カ所に斬られた痕が残っている。
「……これは!」
「他の冒険者にやられて逃げてきたやつか!」
リクトが剣を抜く。セナは素早く杖を構えた。
「嬢ちゃんは後ろに下がれ! 俺の横だ!」
「……でも、わたしも!」
ファナも短剣を手に取り、リクトと肩を並べた。
「いくぞ……今度は、訓練じゃないからな」
「わかってる!」
セナが後方から魔法を放ち、足止めを狙う。リクトが正面から牽制し、ファナは機を見て側面へ回り込む。
「左脚が傷ついてる、そっちから!」
ファナの叫びに、リクトが反応した。
隙を突いて斬り込むと、魔物は悲鳴のような声を上げ、後退した。
ファナの短剣が刃先を揺らし、獣の喉元へ届く寸前──セナの魔力がトドメの一撃として炸裂した。
魔物は倒れ、辺りは静寂に包まれた。
「……無事か?」
リクトが息を弾ませながら振り返る。
「うん、大丈夫……ありがとう」
ファナは胸に手を当てて頷いた。
依頼主は青ざめて木の陰にへたり込んでいた。
「……お、お前ら、やるじゃねぇか」
三人は無言で顔を見合わせた。
この日、ファナたちは初めて「本当の仕事」の重みを知った。




