第七章:小さな勇気の灯火
ギルドの依頼掲示板には、いくつかの簡易依頼が張り出されていた。
魔物退治ではなく、道具の運搬や、野菜の収穫補助、小動物の調査といった、仮登録者向けの内容だ。
ファナは掲示板の前に立ち止まり、視線を泳がせていた。
文字は読める。依頼の内容も理解している。それでも、胸の奥がずっとざわついていた。
「……明日、これをやるんだよね」
自分の声がひどく遠く感じた。心臓が少し早く打っている。
「ファナ、迷ってる?」
背後から声がした。振り返ると、セナが微笑んで立っていた。
肩にかかる淡い銀茶の髪が夕陽に照らされ、やわらかく光を帯びている。
「うん、ちょっとだけ。緊張してるのかな」
ファナがそう答えると、セナは少し目を細めて言った。
「それは悪いことじゃないよ。大事なことをちゃんと受け止めようとしてる証拠だ」
「……うん、ありがとう」
その言葉は不思議と、すっと胸に入ってきた。
夜。ギルド裏の訓練場には誰もいなかった。
星が瞬く空の下、ファナは木の杭を相手に短剣の型を繰り返していた。
動きは硬い。どこかぎこちない。
「……怖いな」
誰にも聞こえないように呟いた瞬間、背後から足音がした。
「こんなとこで一人で何してんだよ」
声の主はリクトだった。
ファナが振り返ると、リクトはどこかバツの悪そうな顔で近づいてきた。
「明日が初依頼だから、少しでも体を慣らしておきたくて……」
「ふーん……まあ、お前、マジメだしな」
リクトはぽりぽりと頭を掻いた後、ふっと目を逸らして言った。
「別に……怖くてもいいと思うぜ。誰だって最初はビビるし。俺だって、そうだったし」
「リクトくんが?」
「な、なんだよその意外そうな顔は!……とにかく、お前がちゃんと準備してるのは分かってる。だから、明日はお前らしくやればいいってこと」
不器用な言葉。でも、まっすぐな想いが伝わってくる。
「……ありがとう」
ファナは小さく微笑んだ。
そのとき、また別の足音が近づいてきた。
「ふふ、二人ともこんな時間に何をこそこそと?」
セナが現れ、からかうように笑う。
「ファナがちょっと不安がってるから、俺が見張ってやってんだよ」
「見張りって……それ、守ってるって言いたいの?」
「ち、ちげーし!」
ふたりのやりとりに、ファナはくすりと笑った。
ほんの少し前まで、誰にも心を開けなかったのに。今はこうして、そばにいてくれる人がいる。
言葉にされなくても、気持ちが伝わってくることがある。
――胸の奥が、あたたかい。
「明日、がんばるね」
そう言ったファナの言葉に、リクトとセナが同時にうなずいた。
夜風が三人の間をやさしく抜けていった。




