第五章:夜の裏庭
その夜、ギルドの裏庭は静寂に包まれていた。
月明かりが敷石を白く照らし、木々の間から洩れる風が、葉をさらりと揺らす。
ファナはひとり、短剣を手に構えていた。姿勢を確認し、踏み込みの角度を確かめるように、何度も同じ動作を繰り返している。
「……まだ肩が上がってる。もっと、自然に……」
カイルに教わったとおりの構え。けれど、動きに力が入りすぎている。まだ、身体がぎこちない。
「集中してるな」
その声に、ファナは驚いて振り返った。
「セナくん……?」
木の影から現れたのは、穏やかな表情を浮かべたセナだった。肩にはいつもの杖がかかっている。
「ごめん、驚かせた。訓練してるって聞いて、少し見に来たんだ」
「ううん、ぜんぜん。見られて恥ずかしいけど……」
「恥ずかしがることないよ。君の努力は、本当にまっすぐだ」
ファナは頬を染めて目をそらした。
「……もうちょっと練習したら、帰るね」
「じゃあ、俺は少し離れて見てる。……無理はするなよ」
そう言ってセナは木の陰に腰を下ろした。その表情はやわらかく、どこか微笑んでいた。
やがてファナが訓練を終えて建物へ戻ると、入れ替わるようにリクトが裏庭へ現れた。
「はぁ……やっと終わったか。あいつ、今日も頑張りすぎなんだよな」
「そう思うなら、もう少し素直に声かけてやればいいのに」
木陰から声がして、リクトはぎょっとして振り返った。
「お、お前、いたのか! まさかずっと見てたのか!?」
「まあね。……リクトって、ほんと分かりやすいな」
「な、なにがだよ!」
「見てて微笑ましいよ。あんなに心配してるのに、肝心の本人にはぶっきらぼう。……もしかして、照れてる?」
「ち、ちがっ……そ、そういうんじゃ……!」
セナは静かに立ち上がり、夜空を見上げる。
「でも……わかるよ。僕も、ファナには特別な気持ちがある。彼女が笑ってると、嬉しくなる」
リクトは一瞬、言葉を失った。だが、すぐに肩をそびやかせる。
「……譲るつもりはねえぞ」
「僕もだよ」
静かな夜に、少年たちの決意が交差した。
──それぞれの胸に秘めた想いが、まだ幼い心に火を灯していた。




