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銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第二部

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第四章:疑念と偏見

挿絵(By みてみん)

実地訓練の成果が掲示板に張り出され、仮登録者たちが自分たちの評価に一喜一憂していた昼下がり。

ファナたち三人の名前も、良好な評価として記されていた。


「やったな、ファナ。俺たち、ちゃんと“合格”だ」

「うん、リクトくんのおかげだよ」

「いや、セナの魔法が決め手だったろ」


三人で笑い合っていると、背後から無骨な声が割り込んだ。

「へぇ……上出来じゃないか。子どものごっこ遊びにしちゃな」

振り返ると、そこにはギルド職員の一人、ヴァイルが立っていた。年配で無精ひげの男。

鋭い目つきは常に誰かを試すように動き、特に獣人に対して冷たい視線を向けることで知られていた。

「ファナ・ラムゼリア、だったか? お前だけ評価が高すぎる気がしてな。……ひょっとして、耳と尻尾で得してるんじゃないのか?」


「……っ」

ファナの手がわずかに震えた。言い返す言葉が見つからない。だが、すぐにリクトが前に出た。

「なんだと!? ファナは誰より真面目に訓練してた! あんた、ちゃんと見てたのかよ!」

「見てたさ。だがな、過去にもいたんだよ。似たようなヤツが。耳が良くて動きが速い、それだけで“優秀扱い”されて、結局役に立たなかった」

セナが一歩前に出る。口調は穏やかなままだが、瞳には冷ややかな光が宿っていた。

「それは、その獣人の子が未熟だっただけでしょう? 今ここにいるファナは、あなたが言う“過去の誰か”ではない」


「口の利き方には気をつけろよ、小僧。ここはお遊びの場じゃない」

「あなたこそ。あなたの個人的な経験と偏見で、今の訓練を否定するのは職員の責務から外れていると思いますが」

ヴァイルの顔がわずかに強張ったが、そのとき、別の足音が近づいた。


「何の騒ぎですか、ヴァイルさん?」

やってきたのはギルドの中堅職員、リリアナだった。

理知的な雰囲気の女性で、教育担当の責任者のひとりでもある。


「……いや、少し確認をしていただけです」

「その“確認”が個人の属性に対する差別でなければいいのですが」

彼女はヴァイルをきつく睨みつけた。


「ファナさんは正当な評価を受けています。貴方の記録と他職員の評価、そして訓練の映像記録にも矛盾はありません。これ以上は職務違反とみなします」

「……へっ、勝手にしろ」

そう吐き捨てるように言い、ヴァイルはその場を去っていった。


リクトは今にも追いかけそうな勢いだったが、ファナがそっと袖を引いた。

「ありがとう、リクトくん。もう、大丈夫」

「でも……!」

「私は、ちゃんと見てくれる人がいるって、わかったから」

ファナの微笑みに、リクトは不満げながらも口をつぐんだ。

セナが少しだけ笑って言う。

「まっすぐ立っていたね、ファナ。……僕たちも見てるから」

ファナは頷いた。偏見は、どこにでもある。それでも、自分を信じてくれる仲間がいる限り、前を向ける。


その後、リリアナが静かに近づいてきた。

「ファナさん、先ほどは不快な思いをさせてしまって申し訳ありません。ギルド職員として、そして教育担当として、心よりお詫び申し上げます」

「……リリアナさん、そんな……私、大丈夫です」

「あなたが“大丈夫”だと微笑んでくれても、それで済ませるわけにはいきません。ギルドは、すべての冒険者を平等に扱う場所であるべきです。今後は、その理念に恥じぬよう努めます」

リリアナは深く頭を下げた。その姿に、ファナは驚きつつも、胸の奥が温かくなるのを感じた。


「……ありがとうございます」


──この日、少女は一つ強くなった。

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