表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/102

第五十四章:──揺らぐ理想、辿る灯火

挿絵(By みてみん)

朝焼けの気配が森の木々を静かに染めていた。

 

ファナは背負い袋を肩に掛けながら、振り返って村の広場を見つめた。

昨日まで彼女が語った場所。子どもたちが眠たげな目をこすりながら、名残惜しそうに見送っていた。

「ありがとう。……また、必ず来るよ」

かすれた声で、けれど確かな言葉を告げてファナは微笑んだ。

レリアが背後からそっと手を置く。

「行こう。今度は、語りの火を絶やさないための旅よ」

カイルは無言でうなずき、前を歩き始めた。

 

一方その頃──

帝国軍別動隊の先頭に立つセリスは、揺れる髪を風に任せながら、地平の彼方に目を据えていた。

「語りの聖域……古代語で“リュミエール・コル”……語りが初めて発せられた地」

彼女の表情は冷たく、整然としていたが、その奥底に微かな迷いの影が浮かんでいた。

 

「語りを封じる。それが、私の正義」

 

そう言い聞かせるように呟いた瞬間、かすかに脳裏に浮かんだ記憶。

 

──幼き日の自分に、誰かが語ってくれた優しい声。

──「悲しいときは、涙を流してもいい。けれど、その後で笑えたら、それは強さだよ」

その言葉に救われたことがあった。

 

けれど、その“語り”が原因で、家族は国家に利用され、情報操作の道具として犠牲になった。

「だから……私は語りを否定する。あれは力であって、情ではない」

セリスは目を閉じ、もう一度自分に言い聞かせる。

 

旅路を進むファナたちの足元に、小さな石碑が埋もれていた。

そこには消えかけた文字──「語りは、心の火」とあった。

ファナはしゃがみ込み、その石碑にそっと触れる。

「心の……火……」

「つまり、灯火ね。消してはいけないもの」

レリアが囁き、レオンが一歩前に出る。

「……それを、帝国は消しに来る」

カイルが短く息を吐き、剣の柄を軽く叩いた。

「間に合えばいいがな」

 

セリスの隊が休息を取る間、配下の一人が彼女に問うた。

「……セリス様。語りを封じた先に、何が残るのでしょう」

セリスは静かに答える。

「秩序。言葉なき平穏。揺るがぬ統治」

「ですが……人が語らなければ、伝えなければ、心はどこに向かえば……」

その問いに、セリスは一瞬だけ沈黙した。

「……それでも、語りがもたらす混乱よりはましだ」

言い切った声は、確かに揺れていた。

 

夜──

ファナは焚き火のそばで、膝を抱えて座っていた。

「セリスおねーさんは、語りを……全部、消したいのかな」

レリアは少しだけ悲しげな表情を浮かべた。

「たぶんね。けれど、彼女自身が本当にそれを望んでるかは……まだ分からないわ」

カイルが火を見つめたまま、低く言った。

「本気で消すなら、話し合いすらしない。……つまり、まだ迷ってる」

 

ファナはそっと目を閉じる。

──語ることが罪になるのなら。

──それでも私は、語りたい。

彼女の胸に灯る“火”は、静かに、だが確かに燃え続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ