表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/97

第四十七章:──揺らぐ声、交わる記憶

挿絵(By みてみん)

街道を抜け、小さな町へと辿り着いた三人は、久しぶりに賑わいのある広場を見下ろしていた。

 

「……今日は市が立つのか」

カイルが視線を巡らせながら呟く。レリアは微笑んで、

「このあたりでは月の巡りごとに“語りの市”が開かれるの。旅の語り部が各地から集まるそうよ」

と言った。

ファナは広場の端、木陰の下で語っているひとりの青年に目を留めた。

風をはらんだ青いマント。年齢は20代半ば。どこか軽やかで、芯のある声を持つ。

「……あの人の話、なんだか不思議」

青年の名はアレス。

自らを“風の語り部”と名乗り、旅の中で見聞きした物語を詩のように語っていた。

 

その夜、町の外れの小さな宿で再会したアレスは、快くファナたちのテーブルに加わった。

「君も“語り部”か?」

アレスの問いに、ファナは少し戸惑いながら頷いた。

「うん……でも、まだちゃんとは……。私は、ただ自分の想いを語ってるだけで……」

アレスは酒杯を回しながら微笑んだ。

「それが語りの本質さ。語るってのは、記録でも宣言でもない。“誰かに伝えたい”って気持ちだ」

彼は続けてこう言った。

「ただな……最近、帝国が“語り”に目をつけてる。軍でも記録語を解析しはじめたって噂だ。君も気をつけたほうがいい。『語り部』って肩書きは、もうただの旅人のものじゃない」

ファナは小さく息を呑んだ。

(……セリス……マーキング……やっぱり)

だが、まだ語るには不安が残る。話せば、また“誰か”の声が混じってくる気がして。

 

翌朝。

町の広場で開かれた簡易演台にて、ファナが短い語りを依頼される。

最初は断ろうとしたが、アレスやレリアの勧めもあり、思い切って言葉を紡ぎ始めた。

 

「……この世界には、たくさんの“語られなかった物語”があります」

語りが進むにつれ、周囲の空気が静まり返っていく。

 

だが次の瞬間──

視界の端に、赤い影が過ぎった。

──焼けた森。

──倒れる父の背中。

──レオンの背。

 

(ちがう……これは、今じゃない……!)

ファナの言葉がひときわ強く発せられた瞬間、聞いていた数人の観客が急に苦悶の表情を浮かべ、膝をついた。

「……幻が、頭に……!」

「誰かの記憶が……俺の中に……」

会場がざわつく。レリアとカイルが即座に駆け寄る。

「ファナ、止めなさい!」

「……ご、ごめんなさい……私、私──っ」

震える指先を握りしめ、ファナは演台を飛び降りた。

(まただ……語ることで、誰かを傷つけた……)

 

混乱から離れ、町外れの林道へ逃げ込んだファナは、木に背を預けて膝を抱えていた。

 

その前に、ふと気配が立つ。

「……その語り、少し危うすぎるな」

懐かしく、切ない声。

木陰から現れたのは、かつて“ラゼンの森の英雄”と呼ばれたレオンだった。

「……レオン……」

ファナの声は震えた。怒りでも、恐怖でもない。ただ、会いたかったという感情だけが胸に浮かぶ。

「お前、変わったな……でも、変わってねぇ。語る目をしてる」

「……あなたが……あのとき、なぜ……」

レオンは答えなかった。ただ、静かに彼女に近づき、頭に手を置いた。

「……帝国はお前を支配しようとしてる。『語り』を利用するためにな。……それが、俺が今でも帝国の“敵”でいられない理由だ」

「……なら、どうしてまだそこにいるの……?」

「……俺には、まだ中から壊すしかできない場所がある。だが、今だけは……言いに来た」

レオンはファナの額にそっと手を当てた。

「“その声が、自分のものか確かめろ”。それだけだ」

次の瞬間、彼は木陰へと姿を消す。

ファナはひとり、心の中で繰り返す。

(……私の声、私の言葉……)

涙ではなく、熱い決意が胸を満たしていった。

「私が語るのは……わたし自身の意思で」

 

その頃、町を離れたカイルとアレスが、ファナを探して林道へ入っていた。

「……あいつ、大丈夫か」

「言葉の力は、使う者に試練を与える。それを乗り越えた者が、本当の語り部になるんだ」

アレスの言葉に、カイルは小さく頷いた。

「なら、俺はその横で剣を持って立つ。……語り部が語れるようにな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ