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銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第一部

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49/95

第四十四章:──風の道しるべ

挿絵(By みてみん)


戦いの夜が明ける頃、森は静まり返っていた。

焼け焦げた木々、踏み荒らされた遺跡の石板、そして漂う鉄と煙の匂い。

 

ファナはその場に膝をついていた。

手のひらは微かに震え、息は浅く、胸の奥で何かがこみ上げてくるのを必死に堪えていた。

(わたし……怖くないって思ってたのに……)

けれど実際は違った。目の前で放たれた殺気、鋼の音、血の匂い──それらは、あまりにも生々しく、心に刺さったままだ。

 

「……ファナ」

気づけば、カイルが横にいた。しゃがみ込み、彼はそっと彼女の銀灰色の髪を撫でた。

「こんなナリしてても、お前……人間で言えば、まだ十五の子供だ」

ファナは俯いたまま、わずかに喉を鳴らした。

「……でも、みんな戦ってた。レリアおねーさんも、カイルおにーさんも……」

「怖くねぇ奴なんていねぇよ。俺だって、本当はああいう連中とやり合うのはごめんだ」

彼の大きな手が、優しく、けれどしっかりと彼女の頭を包み込む。

「……でもな、お前が立っててくれた。あの言葉の力で、戦場が揺らいだ。あれで助かった奴らがいる。だから、今はただ……震えてもいい」

「……うん……」

ファナは静かに目を閉じた。

涙はこぼれなかった。けれど、心の奥で、固く閉じた何かが少しだけ緩んでいた。

 

その頃、森の反対側。

《影の剣》の部隊は静かに撤退していた。

その中心にいるのは、無傷のまま佇むセリス・アラディア。

 

部下の一人が問いかける。

「……あれで良かったのですか? ファナ・ラムゼリアを取り逃がしたままで」

「いいのよ。今は、これで」

セリスは月の見える空を見上げながら、唇の端をわずかに上げた。

「マーキングは済んだ。彼女の精神波と干渉記録は、私たちの結界網に反応するよう調整済み。もう逃げ場はない」

「では、次は──」

「時が来たら、囲いを一気に閉じる。まるで何も知らない子猫が、逃げ場を見つけたと信じたところでね」

彼女の瞳は、冷たい硝子のようだった。

「それまでは、泳がせておく。ファナ・ラムゼリアが、“どこまで自分の言葉に責任を持てるのか”……見てみましょう」

セリスは背を向け、漆黒のマントを翻す。

「記録者の血。その真価、確かめさせてもらうわ」

 

ファナはその日の午後、再び地図を広げていた。

周囲ではカイルが荷物を整え、レリアが村の子どもたちに薬を配っていた。

「……あの時、あの石碑に触れたとき……わたしの言葉が、確かに何かに届いた」

静かに呟いたファナの声に、レリアが微笑みながら応じる。

「ええ。あれはただの記録じゃない。あなたの想いが乗っていたからこそ、力になったのよ」

ファナは地図を指でなぞった。

「次は……この“北の谷”に向かいたい。古い拠点があるって聞いた。語り部が集っていたって」

「それは、あなた自身が“語りに行く場所”を選ぶってことかしら?」

「……うん」

カイルがふっと笑って、荷物を背負い直す。

「なら、行く先があるなら進むだけだな」

ファナは地図を折り畳み、夕陽に照らされた空を見上げた。

 

まだ怖さは残っている。

けれど、それ以上に「伝えたい」という想いがある。

その一歩が、きっと誰かの光になると、彼女は信じ始めていた。

ファナのイメージ画像を1枚だけ置いています。

本編とは切り離したものなので、 興味のある方だけご覧ください。

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