表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/40

第三章:裂ける森

挿絵(By みてみん)

ラゼンの森の夜明けは、いつも薄い霧とともに訪れる。

朝露(あさつゆ)(したた)る葉の匂い、鳥たちの囁き、風の中に混じる小さな命の息吹。それらすべてが、ファナにとっては“帰る場所”の音だった。

けれど今朝は、そのすべてが僅かに歪んでいた。

霧はやけに濃く、朝鳥たちの声も少なかった。

森に住む者たちは、その違和感を言葉にはせず、ただ静かに顔を見合わせていた。

「……北西の境界に、新たな切り開きがあった。誰かが木を倒して道を作っている」

長老エルの言葉に、集まった村の者たちがどよめく。

「人の手か?」

「獣ではない。斧跡があった。しかも、鋼で削った跡だ」

村の空気が一層固くなる。ファナは黙って火の前に座っていたが、その言葉に目を伏せた。

帝国が近づいている。確信に近い感覚が胸を締めつけた。

ラゼンの森は、外界との接点を極力避けてきた。

人族の国家とも距離を取り、交易もほとんど行っていない。

だからこそ、静かに、自然とともに生きてこられたのだ。

だが、それが終わるかもしれない。帝国が本気でこの森に目を向けてきたなら、隠れ続けることは不可能だ。

「私たちは……どうするの?」

若い者が声をあげた。

「戦うべきか、それとも……逃げるか」

エルは静かに首を横に振った。

「まだ決断の時ではない。だが準備は必要だ。……偵察隊を送る。状況を知り、根拠のある判断をしなければならぬ」

ファナは、心がざわめくのを感じた。自分が、偵察に加わるべきだ。そう思っていた。

その夜、彼女は一人で森の北西部へと向かった。

正式な命令はまだ出ていなかったが、じっと待つことなどできなかった。

月明かりの下、葉を踏む音さえ慎重に、ファナは茂みを抜ける。そして、見た。

——森が裂かれている。

斧で削られ、均された細い道が森の奥へと続いていた。その先には、確かに“人の気配”があった。火の匂い、獣ではない足跡、鉄と革の混じった香り。

ファナは木陰に身をひそめ、じっと観察を続けた。

しばらくして、複数の人影が現れる。装備は統一され、胸には黒金の紋章。ガルミア帝国の偵察兵——間違いなかった。

「……っ」

思わず息を呑む。

兵士たちは何かを確認し、森の地図のようなものに書き込んでいた。

そして、一人が小さな石板を取り出して呟くと、それが淡く発光する。魔導通信装置——軍の指揮官に直接報告を送る道具。

(これ以上、侵入が進めば……森は戦場になる)

ファナはその場を離れ、村に戻る決意を固めた。

帰路、心が激しく揺れていた。この森の静けさが壊れる予感。大切なものが奪われる恐れ。そして、自分に何ができるのかという問い。

その答えは、まだ出なかった。

だが、心の奥ではもう分かっていたのかもしれない。森を守るためには、自分の穏やかな日常を手放さなければならないと——

風が再び吹き始めた。 それは変化の風。決意の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ