第三十一章:笑顔と、次の一歩
青空の下、春の陽気が地面を柔らかく照らしていた。
緑に包まれた山道を、三人は穏やかな歩調で進んでいた。
木漏れ日が揺れ、小鳥のさえずりが空気に混ざって心地よい。
ファナはフードを外し、風に揺れる長い銀灰色の髪を陽に透かしていた。
「えっと……次はどこに行くんだっけ……?」
小首をかしげ、顔を上げてカイルを見つめる。
カイルは地図をたたんで答えた。
「この道を真っ直ぐ抜けた先、次の目的地は“エルミナの谷”。
峠を越えたら大きな集落がある。物資も補給できるし、馬車の道も通ってる」
「帝国の追手も、そう簡単にはここまで来られないわ」
レリアが横から補足するように言った。
「怖いかもしれないけど、慌てず、ゆっくり進みましょうね、ファナ」
ファナはその言葉にうん、と強く頷き、にこりと笑った。
「大丈夫、二人がいれば大丈夫だもん」
その笑顔は、どこまでも晴れやかで、隠しきれない嬉しさがにじみ出ていた。
レリアは目を細めて見つめた。
「最近、ファナがよく笑ってくれるようになって……すごく嬉しいの。
ほんの少し前までは、ほとんど笑わなかったのに」
「……ああ、そうだな」
カイルは、そっとファナの頭を撫でた。
その手つきは、荒野で剣を振るう男のものとは思えないほど、優しかった。
ファナは目を細めてその手を受け入れ、ふわりと尻尾を揺らした。
そのとき、道端の草むらの中に、小さな野花が揺れているのに気づいたファナが、ふと声を上げた。
「ねー! カイルおにーさん、レリアおねーさん、きれーなお花〜!」
指をさした先には、淡い青と白の小花が可憐に揺れていた。
「ほんと、綺麗ね」レリアが目を細める。
カイルは「花なんてどれも同じだろ」とぼやきながらも、つい目を向けていた。
ファナは花のそばにしゃがみ込み、にこにこと笑顔を向ける。
その表情は、まるで本当の子どものようで、自然の中で咲く花よりも眩しかった。
「なぁ、カイル……」
レリアが小さく呟いた。
「あの子、ほんとに変わったわね。最初に会った時は、目を合わせることもできなかったのに」
「……ああ、今じゃずっと喋ってるし、尻尾もよう動く」
二人が見守るその前で、ファナが花から顔を上げて叫んだ。
「ねぇねぇ、次の目的地って、どこなの〜? そろそろ着く〜?」
カイルは肩をすくめて言った。
「あと半日くらい歩けば峠に着く。そこを越えれば宿もある」
「そっか〜! がんばるっ」
ファナは弾むように立ち上がり、足取りも軽やかに先へと進んでいく。
レリアとカイルは、そんな彼女の背を見つめながら、しみじみと微笑み合った。
何かが確かに変わっていく――
そう感じさせる、穏やかで優しい時間が、三人の間を満たしていた。




