第二十九章:守られる側として
陽が高くなり、森を抜ける道はやや開けてきた。
空気は澄んでいて、鳥のさえずりが心地よく響く。
三人は再び旅を進めていた。
ファナはレリアの隣を歩き、カイルはいつものように先頭を歩いていた。
先ほどまでの涙は乾き、ファナの足取りはまだ重いものの、確かな一歩を刻んでいる。
そのとき、カイルが前を向いたままぽつりと口を開いた。
「……子供は、おとなしく大人に守られてろ。余計な気を使うんじゃない」
振り向きもせず、ただ淡々とした声だった。
だがその響きには、どこか優しさがあった。
叱責でも、皮肉でもない。
それはまるで、「お前のことは俺たちが守る」と言外に伝えているような声音だった。
ファナは、歩きながらその言葉を胸の中で反芻し、ゆっくりと微笑んだ。
「……うん」
返事は小さな声だったが、確かなものだった。
そして、それに続いて――
「……子供……か……」
ぽそりと、誰にも聞こえないように呟いた。
かつてラゼンの森で、家族を守るために戦おうとしたあの日から、
“守られる側”に戻ることなど、考えたこともなかった。
でも今は、ほんの少しだけ。
(……それでも、悪くないかも)
木漏れ日が揺れる森の道を、三人の影が伸びていく。
戦いの痕跡も、涙の跡も、まるでなかったかのように、
旅路は静かに、そして穏やかに続いていた。




