第二十八章:小さな安心
しばらくの間、ファナの嗚咽だけが森に響いていた。
カイルもレリアも、その涙が尽きるまで何も言わず、ただ傍にいた。
レリアは黙って背を撫で続け、カイルは炎のように揺れていた視線を落ち着けながら、何かを待っていた。
やがて、ファナの嗚咽は小さくなり、肩の震えも次第に落ち着いていく。
「……ごめん、なさい……」
声は掠れていたが、確かにファナの口から出た言葉だった。
顔を伏せたまま、両手で涙を拭いながら、ようやく目を上げる。
「カイル、レリア……ほんとに……ごめんなさい……」
レリアはにこりと微笑み、「謝ることなんてないのよ」と優しく返した。
その隣で、カイルが無言で手を伸ばす。
その動きに――
ファナの体がビクリと震えた。
(叩かれる……怒鳴られる……)
反射的に身体が強張る。
けれど、次の瞬間――
「……よく戻ってきたな」
カイルの手は、彼女の頭にそっと触れ、優しく撫でた。
力強さも、冷たさもなく、ただ静かに、髪をなでる掌の温度。
ファナの耳がぴくりと動き、戸惑いと安堵が同時に押し寄せた。
そして無意識に、彼女の尻尾が……ぱた、ぱた、と左右に振られ始めた。
(あ……)
ファナ自身も気づいていないその仕草に、レリアがくすっと小さく笑った。
「……かわいい」
「……は?」
カイルは怪訝そうに眉をひそめたが、頭を撫でる手はそのままだ。
ファナは頬を赤らめ、でも拒もうとはしなかった。
それどころか、その手のぬくもりに包まれるように、ようやく深く息を吐く。
ほんのひととき、森に静かな風が吹き抜けた。
カイルはやがて手を離し、いつものぶっきらぼうな口調で言った。
「……さ、落ち着いたなら行くぞ。まだ遠いんだ」
ファナはきょとんとしながらも、立ち上がった。
「うん……」
その足取りは、さっきまでの絶望とは違う。
少しだけ、力が戻った歩幅だった。
レリアがファナの背に手を添えながら、三人は再び歩き出した。
まだ道は続いていく。
だが、ファナの心の奥には、小さな安心が静かに芽吹いていた。




