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銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第一部

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第二十六章:震える手の先に

挿絵(By みてみん)

ゴブリンたちはすべて斃された。

鋼の軌跡を描いたカイルの剣は血で濡れ、レリアの魔法の余韻が空気を焦がしている。

けれど、そこに残された静寂は、決して安堵ではなかった。

ファナは草の上に座り込んでいた。

震える手に握っていたはずの短剣は、また音を立てて落ちた。

カラン……

刃の冷たい音が、彼女の胸に刺さる。

「……あ……」

もう一度拾おうとして、指先を伸ばす。

だが、うまく掴めない。

震えが止まらず、指が刃に触れた瞬間、びくりと手を引っ込めてしまう。

ただそれだけの動作なのに、目の奥から涙がじわりと滲み始めていた。

「……また……また、私のせいで……」

彼女の声はかすれていた。

「また……私のせいで、二人を……危険な目に遭わせた……」

小さく、けれど執拗に、何度も繰り返す。

「私が……勝手に出て行ったから……また、迷惑かけて……また、誰かを傷つけて……」

レリアが駆け寄ろうとするが、カイルは手で制した。

彼は静かにファナのそばに膝をつき、落ちた短剣を拾い上げる。

「……お前のせいじゃない」

「……でも……でも……!」

ファナの肩が震える。

耳は垂れ下がり、尻尾も地面に伏したまま動かない。

「私が……弱いから……自分で何もできないから……! 全部、全部……!」

涙がこぼれ落ちる。

言葉が止まらない。止めたくても止められない。

カイルは短剣を手に取ったまま、しばらく黙っていた。

そして、ぽつりと呟く。

「……お前は、ちゃんと立ち向かおうとした。逃げずに、刃を握った。それだけで十分だ」

ファナはその言葉に、目を見開いた。

「……俺たちが一緒にいるのは、お前を責めるためじゃない。守るためだ。……それに、戦いなんてのは、一朝一夕でできるもんじゃない」

「……カイル……」

「情けないと思ってもいい。怖くてもいい。でも、生きてる限り、お前は何度でもやり直せる」

その言葉が、ファナの胸の奥に静かに届いていた。

レリアが、そっとファナの手を握った。

「あなたが無事で、本当に良かった。私たちは……あなたを失いたくなかっただけよ」

ファナは、ようやく、声を殺して泣き始めた。

草の匂いと、血の匂いと、そして温もりだけが、彼女を包んでいた。

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